本の現場


副題:本はどう生まれ、だれに読まれているか
著者:永江 朗  出版社:ポット出版  2009年7月刊  \1,890(税込)  223P


本の現場―本はどう生まれ、だれに読まれているか    購入する際は、こちらから


今週月曜日(9月7日)に中堅出版社のゴマブックスが破綻(↓)しました。(毎日新聞のニュースはこちら


今日の一冊は、「本が売れない」と言われて久しい出版業界について書かれたタイムリーな一書を取り上げます。


著者の永江さんは、書店員 ⇒ ライター兼編集者 ⇒ ライター専業 と、本に関わり続けてこられました。プロフィールに「ライフワークは書店ルポ」と書いているくらい本好き、書店好きな方です。


本書の元になった連載は「本が売れないと言われているのに、どうして新刊の点数は増えているのだろう」という疑問からスタートしました。


永江さんの調査によれば、1974年の出版点数は約2万点で、15年後の1989年は約3万8千点、さらに15年後の2004年には約7万5千点まで増えました。
15年で倍。次の15年でさらに倍ですので、この30年で4倍に増えたことになります。


しかし、推定売上げ総額は約2倍ですので、1冊あたりの販売金額は約1/2になってしまいました。


この数字で見るかぎり、「本が売れない」は半分あたっていて、半分は外れ。


本の売上総額は増えていますから、「本が売れない」わけではありません。逆に「1冊あたりの売上げ」が半分に減っていますので、「本を作る側から見て以前より売れなくなったように感じる」というのが正しいのです。


では、「本が読まれなくなった」とか「若者の読書ばなれは深刻だ」と言われているのは本当でしょうか。


永江さんが見つけた2つの統計データを見ると、ひとつは「増えているといってもいい」結果を示していますし、もう一つは確かに減っているように見えますが、若者よりも中高年のほうが「読書ばなれ」の傾向を示しています。


興味深かったのは通勤電車の中の読書率で、1986年に9.7%だった読書率が、2004年には12%、2007年には16.3%に増えているといいます。


永江さんは「読書ばなれ」は「青少年の犯罪」と同じだと断定しています。


統計では青少年の犯罪は激減しているのに、ニュースで凶悪犯罪を繰り返し見せられると、なんとなく増えたように感じてしまう。同じように「読書ばなれが進んでいる」と思って電車内を見るから「本を読む人が減ったなあ」と感じるのです。


いや〜。知らなかった。


そう言われてみると、通勤電車の中でケータイしている人に比べると確かに少数派ですが、車内を見渡せば2人、3人と本を開いています。1986年のことは分かりませんが、16.3%といわれると「そのくらいかな〜」と感じます。


他にも、編集プロダクションの実情、共同出版という名の自費出版の実態、新書ブーム、本屋大賞の人気の理由など、本についてのエトセトラが書かれています。


新書についての「付記」で、

  「それにしても、クソみたいな新書が多すぎる!」
  「新書は知識産業のファストフードか」

と毒を吐いてみたり、


ベストセラーの問題点を指摘したあと、

  「私には、本の多様性も4倍になったという実感がない。
   それはファストフード店ファミリーレストランが増えても、
   食べ物の選択可能性が格段に広がったと感じられないのと
   似ているかもしれない」

と、辛辣な意見を述べています。


私の大好きな永江さんですが、ひとつ不満なのは、本書の発行が遅かったこと。


2007年はじめに雑誌の連載が終わったというのに、「そのまんまじゃなくて、補足を入れましょう」なんて言ってるうちにずるずる2年も経ってしまったといいます。


社会情勢のレポートは、やはり書いた直後から古くなっていきます。


各種グラフは2008年までカバーしていますので、データとしては最新のものが使われていますが、永江さんの分析は果たしてこの2年間で変わっていないのか、気になってしまいます。


本書では『R25』をはじめとするフリーペーパーの衝撃をレポートしていますが、最近、『R25』が不調という雑誌記事の見出しをどこかで見ました。 (東洋経済この記事だったかなぁ……)
また、どうせ遅くなるんだったら、今年に入ってビジネス書が売れなくなったというウワサが本当なのかを書き加えて欲しいと思いました。


……なんてエラそうなこと書きましたが、逆に2年前のレポートでも読ませてしまう文章力はさすがです。


書評ライターのはしくれを目指す私としては、永江さんや日垣隆さんのような“売れる”文章に憧れてしまいます。
猛毒を持つ日垣さんも良いのですが、毒はあっても誠実さを感じさせる永江さんの芸風を、まずはお手本にすることにしましょう。