著者:谷川俊太郎with friends 出版社:角川SSコミュニケーションズ 2009年4月刊 \1,260(税込) 175P
谷川俊太郎が書いた「生きる」という詩をお手本にして、一般の人々が書いた自分にとって「生きる」とはどういうことかを綴った連作詩集です。
この本の生みの親になったのはもちろん谷川氏の詩ですが、一般の人々が自分の思いを本としてまとめるきっかけになったのは、mixiのコミュニティでした。mixiの谷川俊太郎コミュニティで、「みんなの『生きる』をつなげていこう」という試みがはじまったのは、2007年10月のことです。
毎日、参加者の誰かが生きるとは何かを見つけて詩を書き込みます。多くの人が書いてくれた内容を元に、昨年8月に『生きる わたしたちの思い』という本が出版されました。
その第2弾が本書で、まだ出版したてのホヤホヤです。
まず、冒頭に谷川俊太郎作の「生きる」という詩が載っています。
生きているということ
いま生きているということ
それはのどがかわくということ
木もれ陽がまぶしいということ
(中略)
かたつむりははうということ
人は愛するということ
あなたの手のぬくみ
いのちということ
いつも使っている言葉で、いつもの日常を切り取り、その積み重ねが「生きる」ことなのだということを教えてくれます。
「名作『生きる』をお手本に、自分なりの『生きる』を表現してみんなでつなげていこう」とmixiで呼びかけがあると、ものすごい勢いで投稿数が増えていきました。
「これは本になるんじゃないか」
そう直感した編集者の亀井氏が谷川俊太郎氏に書籍化を打診したところから第1集『生きる わたしたちの思い』が動き出しました。
最近、インターネットが元になっている本をよくみかけますが、本書のようにきちんと形になるまでには、やはり編集者の情熱が不可欠だったのです。
2000通の投稿の中から100通を選び、一人ひとりに確認のメールを送った亀井氏は、返信メールを読んで胸を打たれたといいます。それぞれの詩の背景に、思いもよらぬ深刻な事情が隠されていることがあったからです。
たとえば、ハンドルネーム「Kokoro*」さんの「生きる」は次のように綴られています。
もみじのようなちいさなてのひらの
ぬくもりをまもりつづけること
私は最近シングルママになったばかりです。
独りになった寂しさや辛さに押し潰され、
泣きそうになる事がよくありました。
でも、まだ何も知らない幼い娘が
「ママ、あそぼ」と伸ばしてきた手を握り返した時、
私はこの手を守るために、
どんな事にも負けてはいけないと心に誓ったのでした。
ちいさな手は未来を持っているのだと。
インタビューに答えて、亀井氏は次のように語っています。
「生きることは楽しいことばかりじゃない。
むしろつらいことのほうが多いかもしれないけれど、
みんな、誰のせいにするでもなく、
自分と向き合って生きているのです」
編集者が惚れこんだ作品は、いざ出版してみると、詩集としては異例の7万部のヒットとなり、感動の波紋が静かに広がりました。
第2弾の本書の内容は、「より深く、より広く、より濃くなっています」とのこと。
献本を頂戴し、さっそく読ませていただきました。
なにげない一言の背後にある投稿者の心情には、悲しみや苦しみもあれば、家族と過ごす幸福や、青春の喜びもありました。
これは、本ブログで自信をもってお勧めできる一書です。
100人の作品から、2つだけ引用させていただきます。
その1。
ハンドルネーム「Kokoro*」さん。
ずっと友だちでいよう
そう言ってくれる友達がいること
第1集にも選ばれたシングルママは、本書「第2章」にも選ばれていました。
Kokoro* さんにはあまりたくさん友達がいません。
友達づくりがうまくないという、という Kokoro* さんだからこそ、友達のいるありがたさが心にしみるのでしょう。
その2。
ハンドルネーム「黒つぐみ」さん。
自転車を漕ぎながら歌をうたうこと
だけど知らない人とすれ違うと
急に小声になってしまうこと
あるある!
僕も高校時代、自転車通学しながら大声で歌うのが大好きでした。
すれ違う人もいない田舎道だったのですが、ある日、母親から、「近所の○○さんの奥さんから、『オタクの息子さん、いつも自転車で気持ち よさそうに歌っているわね』と言われて、母さん恥ずかしかったよ」と告げられたことがあります。
思わず僕も顔が赤くなりました。
「黒つぐみ」さんも田んぼ道で歌っているそうですが、小声にしたつもりでも、誰か聞いているかもしれませんよ(笑)。