日本列島プチ改造論


著者:パオロ・マッツァリーノ  出版社:大和書房  2009年2月刊  \1,500(税込)  245P


日本列島プチ改造論    購入する際は、こちらから


日本の政治はいったいどうなっているんだ。
麻生も小沢もしっかりしろ!


……と、お怒りのあなた。


まあまあ、そんなに興奮せずに、身近な問題から改善していきましょう。小さな小さな改善案を100個、田中角栄さんの『日本列島改造論』に及ばずとも、“プチ”改造論をお話ししましょう、という書名です。


ただし、本書にまじめな議論を期待してはいけません。
著者のパオロ・マッツァリーノのプロフィールには、「日本文化に造詣の深いイタリア生まれのアラフォー戯作者」と書いてあるからです。
男のくせに「アラフォー」と年齢をぼかしているのはヘンですし、卒業したというイタリアン大学なんて日本にもイタリアにもありません。


イタリア人というのは“自称”に決まってます。
ええ、ええ、日本人に違いありません。


しかし、「戯作者」を名乗っている人の正体を詮索するのは、ヤボというもの。ここはひとつ、ナポリ三区から参院選に出馬予定のちょいウザおやじの言うことを聞いてみようじゃありませんか。


マッツァリーノさんが列島改造を提言する際に考えたのは、「もうこれ以上、世の中を正しくすることなどできないのではないか」ということです。
これからも社会は進歩し続けるかもしれない。でも、世の中を正しくするのが限界に近づいているのなら、これからは方向を変えるしかない。
どういう方向に針路を取るかといえば、「世の中をおもしろくする方向」へ向かうべきではないか。そうマッツァリーノさんは考えました。


たとえば、教育基本法の改正案。2006年末にこの問題で国会が紛糾していたことをご記憶でしょうか。
それまでの教育基本法、改正案、民主党案に目を通したマッツァリーノさんは、大切な徳目が抜けていることに気付きました。


心理と正義を愛せ、日本を愛せ、我が国と郷土と伝統を愛せ。どれもご立派ですが、ラテン民族から見ると、なにより愛さなければならないのは、人間のはずです。
人を愛さずに、モノばっかり愛することをうたっているのはおかしいし、何より文章のリズムが悪い。


子どもたちに人を愛する大切さを教える、リズムの良い基本法はできないものか……。


考えた末にマッツァリーノさんが思い当たったのは、昭和51年に杉良太郎が歌って大ヒットした『すきま風』という歌でした。


「人を愛して 人はこころひらき」と歌い出しから、人を愛する大切さを歌っているのは、なんと理想的でしょう。しかも、「いいさそれでも 生きてさえいれば」と歌うことで、イジメによる自殺問題へのケアも万全、とマッツァリーノさんは絶賛しています。


また、正義をふりかざす人に向かって、正義の味方が闘うべきなのは「悪」ではない、と異論をさしはさみます。


よく考えてください。「悪」の反対は「善」に決まってます。「悪」と闘うんだったら「善の味方」を名乗れば良いのです。
「正義の味方」が闘うべきなのは、「正義」の反対のもの。そう、「不義」なのでした。


「正義の味方」が不義密通の現場に現れるという絵柄はピンと来ませんが、もう笑っちゃうしかないくらい、ごもっともなご指摘です。


ことこと左様に、本書は、日本をおもしろくするために、ちょっとした気付きを冷やかし半分に教えてくれます。


よく、こんな発想ができるもんだなぁ〜、と感心することしきりでしたが、マッツァリーノさんが「発想の秘訣」を教えているので、ちょっとだけ紹介しましょう。

   もし本当に発想力で勝負したいのなら、あえて、他人と違うことを
  やらねばなりません。他人と違う道を歩まねばなりません。そして、
  論理的思考をしてはいけません。


「論理的思考をしてはいけません」に意表をつかれた方も多いと思いますが、マッツァリーノさんのおっしゃるには、論理とは過去の繰り返しです。いくら過去のものさしでものごとをこねくり回しても、論理的思考から新たなアイデアが生まれたりしません。


本書に登場する、一見ふざけているとしか思えない突飛な発想を学べば、「他人と違う道」とは何か、日本をおもしろくするにはどうすれば良いか、見えてくるに違いありません。


たんなる悪ふざけを越えたマッツァリーノさんの作風に惚れ込み、今まで次の3冊を書評しています。ご興味のある方は、「読書ノート」バックナンバーを参照ください。


反社会学講座』       http://d.hatena.ne.jp/pyon3/20041115
『反社会学の不埒な研究報告』 http://d.hatena.ne.jp/pyon3/20060131
『つっこみ力』        http://d.hatena.ne.jp/pyon3/20071104