老いて育ち盛り


著者:溝江 玲子  出版社:遊絲社  2009年2月刊  \1,365(税込)  142P


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著者の溝江さんは、現在71歳。
失礼ながら、決して若くはない年齢です。


しかし、並みの年寄りのように、おとなしくしていません。


子どものころ体育が嫌いだったのに、急に社交ダンスに目覚めてみたり、韓国旅行をきっかけに、70歳直前でハングルの勉強をはじめたり、周囲の反対を押し切って運転免許証を取得したりと、家にじっとしている溝江さんではありません。


いつも騒がしく楽しい自分の日常を紹介したら、色んな意味で「面白い」になるのではないか。楽しい私は面白い私に違いない。
そう確信した溝江さんは、月刊誌『女性のひろば』に「老いて育ち盛り」というエッセイを連載しはじめました。


本書は、1年半ぶんのエッセイに書き下ろしを加え、きっと「面白い」に違いない、と自画自賛しながら世に問うエッセイ集です。


実際に読んでみると、溝江さんのギャグ、実はそんなに面白くありません。
ダイエット体験記のはじめに「ローマもダイエットもそして美貌も一日では成らず」と書いたあと、「面白くない?」と書いています。


溝江さん。このギャグ、あんまり面白くありませんよ。
私のような中年男性が言ったら、「オヤジギャグ」と葬り去られるのが関の山です。でも、言った著者がいつも元気な女の人だからみんな読み進んでくれるのですよ。


ギャグのキレはさておき、謙遜が美徳とされている日本で、「面白いはずよ」と前書きに書くというのは意表を突いていて、この「大阪のおばちゃん」ムードまる出しなところが、田辺聖子さんのエッセイのように読者の心をぐっとつかんでしまいます。


田辺聖子さんは、長年連れ添った「おっちゃん」を亡くしてしまいましたが、溝江さんの夫は健在で、このエッセイ集にもよく登場します。


この夫、溝江さんと仲が良いのか悪いのか、よくわからないところがあります。


たとえばハングルの勉強をはじめた溝江さんに向かって、
  「そんな歳にもなって何をやっているんや」
と鼻で笑います。
溝江さんが「いつまでも若い私に焼きもちを妬いているんでしょ」と反撃すると、「ばかを言うな!」とムキになって怒りだしました。


かと思えば、溝江さんが「なつかしのうたごえ」という合唱グループに参加すると、夫もメンバーに加わりました。


いったい、仲が良いのか悪いのか。
――溝江さんの愛情のこもった揶揄を読んで、たぶん、仲が良いのだろうと推測しましたよ。


少し本書から外れますが、ふたりの熟年夫婦のやり取りを読んでいて、私の実家の両親のことを思いだしました。


私の父は溝江さんのように社交ダンスをしたり、カラオケをしたり、はては牧場でポニー70頭を飼ってみたり、80歳代に突入したとは思えない活動ぶりです。
私の母の方は、ゲートボールやパークゴルフに通ってはいますが、父親ほどハマっていません。どちらかというと、溝江さんの夫のように、家でブツブツ言っているタイプ。


夫婦で無理して趣味を合わせないところが夫婦長持ちの秘訣かもしれません。


本の内容に話を戻すと、本書は夫をからかう他にも、老体にムチ打たないダイエット法で読者を引き寄せ、小さな出版社をはじめたころのエピソードで読者を笑わせ、日本語を勉強して来日してきた女子高生との交流の話で読者にも語学学習欲を沸かせてくれます。


お年寄りをいたわることは大切ですが、溝江さんに限っては、いたわるなんてかえって失礼にあたります。
元気を分けてもらいながら、いっしょに笑ったり夫をからかってみたくなる。今日の一冊は、そんなスグレモノ本でした。