著者:高樹 のぶ子 出版社:幻冬舎 2008年11月刊 \924(税込) 171P
60歳台に突入した女性作家が「恋」の諸相を教えてくれる恋愛論です。
仕事も恋愛も、同じく人生の一部のはずなのですが、男は仕事に関心を持ち、女は恋に重きを置くと言われます。男性向けの本では、「いきがい」というと仕事が第一に出てきますが、「恋」を最高の価値としている本は、やはり女性向けが多いようです。
本書も例外ではありません。
章ごとに花のイラストが書いてあったり、表紙にピンク色を使っていたり、いかにも女性を対象読者にしている装丁です。表紙にダブルベッドが描いてあるのは、精神的なことだけでなく肉体的な恋愛のことだって書いてあることを示しています。
女性どうしの会話をちょっとだけ盗み聴きするようなスリルを味わいながら、50代男性の私も読ませてもらいました。
冒頭で高樹さんは「ビタミン剤とホルモン剤の数十倍の効果」と、薬効を示しながら、次のように恋愛を讃えています。
恋愛は生きていることをもっとも強く感じることができるステージ。
いつもと同じはずの時間が輝きに満ちて充実しているし、本来の自分
より大きな力が出てきて、笑顔が溢れ、やさしくなります。
自身もまだまだ現役。
60歳を過ぎても、「頑張って一所懸命に顔を磨いて、スタイルを維持し、ファッションにも気を遣」っています。たとえ70歳を過ぎたとしても、もしかしたら若い男性をゲットできるかもしれないという気持ちを忘れない、と言い切ります。
もちろん後輩の世代にも、いろんなことを教えてくれます。
たとえば、高樹さんは、男性と女性が異なっている点を示し、よく知っておいたほうがいい、とアドバイスしています。
少し引用してみましょう。
男の恋はインターネットを例にすれば、「名前をつけて保存」。
女性の場合は「上書き保存」
男性は、一つひとつの恋愛を別のフォルダに残して大事にします
が、女性は、今までのものを全部消去して上書きします。今はこれ
がすべてと。男は恋愛の火を焚き火のように持続的に抱えてつなげていくのが
苦手です。(中略)
そこへいくと、恋する女性の炎は連続して長く燃えさかります。
オジサンの私としては、ちょっと背筋が寒くなったように感じるんですが……。
他にも、
- 恋愛に「待てば海路の日和あり」はない
- 夫婦といえども男と女
など、含蓄の深い格言がたくさん出てきます。
さて、これまでの人生、けっこうワガママを貫いてきたと自負する高樹さんも、けっして自分に満足していません。他人からはぜいたくと言われるかもしれませんが、思いどおりにならないことがたくさんあります。
思うにまかせぬこと、うまくいかないという不全感との付き合い方を考えていると、恋愛も同じことだと気付きました。
そういえば、源氏物語の光源氏も、あれほど血筋もよく女性にモテまくるプレイボーイだったのに「晩年になっても、思うにまかせぬ悲しいことばかり多い」と嘆息しているのです。
物語の中のできごととはいえ、あの光源氏でさえ思うにまかせないことばかり。人間は皆、思いどおりにならない悲しいことを抱えている存在だと思い知ることで見えてくるものもある。
さて、あなたに何が見えてくるか……。