情報化社会 復刻版


副題:ハードな社会からソフトな社会へ
著者:林 雄二郎  出版社:オンブック  2007年7月刊  \1,890(税込)  235P


情報化社会 復刻版―ハードな社会からソフトな社会へ    購入する際は、こちらから


「復刻版」と書名にある通り、本書は1969年に発刊された講談社現代新書を38年ぶりに復刻したものです。
通常の復刻版は、発刊当時の雰囲気を再現するために、原著の装丁を踏襲することが多いようですが、この本の復刻の目的は、高度成長時代のことを懐かしむためではありません。著者の林氏が現代にも通用すると判断した、高度選択時代の考え方をあらためて問い直すために復刻したのです。
林氏が91歳になった今も「日本フィランソロピー協会」の顧問として社会貢献活動の旗振りを続けているように、本書には本格的な情報化社会を迎えつつある現代にこそ通用するビジョンが示されています。


林氏は経済企画庁で日本経済の長期計画立案に関わったあと、本書の執筆当時は、東京工業大学に新設された社会工学科の教授に就任したところでした。
当時の経済予測は、統計学とコンピュータの発達のおかげで計量経済学が実用的手法として注目を集めてはじめていましたが、10年、20年という長期の予測は、精度がわるくて使いものになりませんでした。(長期の予測がむつかしいことは、いまも変わっていません)
うまく予測できない原因の一つは、従来のやり方が量的な変化に注目したものであり、質的な変化には対応できないことでした。
社会の変化を質的にとらえるため、林氏は「情報」をキーワードとして商品やサービス、レジャーから社会システムまで、さまざまな社会の変化を読み取ります。


ただし、林氏のいう「情報」という言葉は、現在使われている通常の「情報」よりも広い意味を持っています。
たとえば、万年筆という商品を考えるとき、字を書くという基本的機能、最低限持ち合わせていなければならない機能を「実用的機能」とよび、デザイン、キャップの色、手ざわりなどの付随的な機能を「情報的機能」と命名しました。
社会が豊かになるに従って、「実用的機能」だけでは満足しない消費者が増え、「情報的機能」が商品を選ぶ決めてになる――と林氏は論じます。


ん? どこかで聞いたような。
商品の付加価値とかブランド戦略など、マーケティングの世界で良く聞く内容と同じです。


現代にも通用するこの考え方を使って、林氏はサービスの情報化、会社・学校・都市の情報化、レジャーの意味、テレビ・コンピュータの影響力拡大など、多方面の社会現象を考察し、予測し、ビジョンを示します。


あちこちに話が展開される林氏の思考にとまどいながら、読みつづけるうちに私は不思議な快感を覚えました。あらゆることを「情報」という一つの考え方で裁断してみせるのは、実に気持ちいいのです。
マルクスは世界を「経済」で説明し、天野祐吉はすべてを「広告」で説明し、小倉千加子はすべてを「結婚」で説明してみせました。


林氏も「情報」をキーワードにして社会を語ります。
ただし、ひとつの言葉をキーにしているからといって、決して固定的なものの見方はしているわけではありません。社会と人間の相克を宿命と見定め、少しでも良い社会を構築することをこころざし、今も行動を続けているのです。


許されるならば、こんなに元気な91歳の“青年”の息吹に、直接触れてみたいものです。