新平等社会


副題:「希望格差」を超えて
著者:山田 昌弘  出版社:文芸春秋  2006年9月刊  \1,500(税込)  285P


新平等社会―「希望格差」を超えて    購入する際は、こちらから


1990年代の終わりころから「格差社会」という言葉をよく耳にするようになりました。
山田昌弘氏も2004年11月に出版した『希望格差社会』で、目の前の経済格差以上に若者が将来に希望を持てない“希望格差”こそが深刻な問題であることを指摘しました。


本書は、ニューエコノミーによって生じた「格差社会」を元に戻すことは不可能にしても、希望格差が固定化する社会だけは何とかしなければならないという主張を展開し、そのための対策(できること、すべきこと)を世に問う提言書です。


山田氏の分析によると、ニューエコノミー社会の仕事は、高い専門性が要求される専門中核労働と、マニュアル通りに働けばよい定型作業労働に二分されます。
新しいことを作り出してより多くの売上を上げることができる専門中核労働者の報酬は上昇していき、定型作業労働者の時給は増えません。ですから、経済格差は開く一方です。だからといって、いまさら労働環境を昔の状態に戻すこと、つまり家計を支えることになっている男性正社が年功序列賃金で終身雇用されていた時代に戻すことはできません。国際競争力をつけるためにも、生産性の低い人に高い賃金を払い続けることはできなくなってしまったのです。


山田氏が専門とする家族社会学の目で見ると、この20年〜30年で、家族のかたちは、以前のように「正社員の夫+専業主婦の核家族」「自営業の大家族」の二つに分類できていた時代と違い、多様な家族形態が増えてきました。
たとえ「正社員+専業主婦」モデルが少なくなって共働き夫婦が増えていても、そして、同じ共働きでも給料の多い夫婦と給料の少ない夫婦の生活に差が生じていても、家族のかたちが多様になってきたのですからもう後戻りはできません。
ただ、親の世代に生じた格差が子どもの世代に引き継がれること、それによって格差が固定化し、希望を失う人が増える社会だけは避けなければなりません。


少しだけ山田氏の対策案を紹介すると、以下のような内容です。

  • 生活困難で親の支援を受けられない若者の自立を支援するために、自立支援施設のような「親代わり」の施設やとりあえずの生活保障が必要である。
  • 対策資金をひねり出すため、累進課税を昔の水準に戻し、相続税を強化し、寄付を促進することが有効であろう。
  • 単に所得控除ではなく、税額控除によって、寄付を促進する必要があると思われる。


それぞれ、ごもっともな対策ではありますが、著者が社会的問題点を指摘するときのような鋭さが感じられません。やはり、問題点を見つけるのは簡単でも、解決するとなると一筋縄ではいかないのですね。


本書の提言部分は前半の第1部で終ってしまいましたが、以前書いた原稿を集めた第2部には、厳しくも鋭い分析が並んでいましたよ。
私が特に感心してしまったのが、未婚率が高くなっていることの原因について言及した部分です。
1975年以降日本で未婚化(初婚年齢が高くなり未婚率が高くなる)が生じる根本的理由を調査分析した結果、次の3点が見えてきました。
 (1)女性は、結婚後、男性(夫)に家計を支える責任を求めるという
  傾向が強い。
 (2)若い男性の収入はオイルショック(1973年)以来相対的に低下、
  そして、近年(1995年以降)は不安定化している。
 (3)結婚生活に期待する生活水準は、戦後一貫して上昇している。


しかし、(1)(2)(3)の結論を発表しようすると、マスコミ関係者や行政関係者は協力してくれません。こんな身も蓋もない結果を発表すると、とんでもない反発が生じてしまう、とビビッてしまったのです。


少子化対策ひとつとってみても、一刻の猶予もありません。
希望がもてない状況に追い込まれている人々が、現実に目の前にいるのですから。