思いやり格差が日本をダメにする


副題:支え合う社会をつくる8つのアプローチ
著者:稲場 圭信  出版社:NHK出版生活人新書  2008年10月刊  \693(税込)  188P


思いやり格差が日本をダメにする―支え合う社会をつくる8つのアプローチ (生活人新書)    購入する際は、こちらから


思いやりって何だろう。
他の人の幸せと自分の幸せと、どっちが大切なんだろう。


人の生き方の根源を問う本を取りあげます。


本書は利他主義、宗教の社会貢献活動を研究している大学院の准教授が書いた、問題提起を主目的とした「おもいやり」の解説書です。『思いやり格差が日本をダメにする』というタイトルはやや刺激的ですが、学者さんだけあって、著者の稲葉さんの問題提起はおだやかです。


格差社会」というのは、経済的に余裕のある親のほうが子どもの教育にお金をかけられるので、結果的に子どもの世代の経済的格差が広がってしまうことを問題にした言葉でした。
「勝ち組」の親を持つ子どもたちが通う学校には、同じような境遇の子どもたちが集まりますので、社会的“弱者”と交流をもつ機会が閉ざされます。思いやりをはぐくむ機会を奪われ、「思いやり格差」が広がるばかりの社会を、どうやったら防ぐことができるのか。


それが稲葉さんの問いです。


学術的研究によると、小学生の示す思いやり度は1970年代から80年代にかけて急激に低下し、90年代に入っても低いままだそうです。


ボランティアのさかんな国、チャリティ先進国との比較も交えながら、稲葉さんが提言しているのは、教育の中に何かしら制度的な「思いやり」を取り入れていく必要があることです。思いやり度の高い社会を築くためには、やはりお手本を見せることが重要なのです。


そうは言っても、学者さんや行政が「思いやり」を強調しても、ついつい私たち一般人は他人ごとと考えてしまいます。稲葉さんの主張は、どれだけ社会に届くのでしょう。



ひとつ印象的だったのは、著者の稲葉さん自身が出会ったフィラデルフィアへ出張したときの事件です。


ホテルから利他主義研究関連のセンターに行くためタクシーに乗った稲葉さん。赤信号で止まったタクシーの斜め前の歩道に老人が倒れているのを見つけます。通りがかりの中年男性が手をかしますが、老人は立ち上がることができません。
タクシーの運転手が迷わず車を飛びだして中年男性を手伝いますが、やはり老人は立ち上がれません。運転手は道の反対側の別の男性に「近くのホテルから車椅子を持ってきてくれ」と声をかけ、タクシー戻って運転を再開しました。運転しながら警察に携帯電話をかけ、老人のサポートを依頼するのを聞き、稲葉さんは反省させられます。


聞けば運転手はイスラム教徒、倒れていた老人は白人、手を貸した中年男性は黒人。
人種も民族も超えた助け合いのドラマが目の前で繰り広げられていたのです。観客の自分は、老人を心配しながらも約束の時間を気にしているだけで何の行動も起こさず、最後にひとりポツンと残されました。


利他主義研究関連のセンターの前に。