本気で書きたい人の小説「超」入門


著者:松島 義一著  出版社:メディア・ポート  2005年1月刊  \1,575(税込)  P246

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いや、別に私が本気で小説を書く気になったわけではありません。
私の初めての本『泣いて 笑って ホッとして…』の出版社がこの本の発行元です。版元を同じくする兄貴のような本ですし、文章を書く動機を高めてくれそうな本なので、手に取りました。


著者の松島さんは、プロの編集者です。
集英社に勤務していたとき、文芸雑誌『すばる』創刊に尽力し、新人時代の北方謙三立松和平、小樽山博、中上健次、森瑤子諸氏を育てました。原稿にモーレツな朱を入れたそうですので、鬼編集者と恐れられたことでしょう。『イミダス』や『集英社国語辞典』の創刊にも携わったあと、現在は、大学講師をしながら多数の創作講座、文章教室、文芸サークルを指導しておられ、根っからの活字人間です。


その、プロの編集者が、文章を書くために必要なことを、心得、探求、継続、実践など、9つの角度で説いているのが本書です。
文章を書くとはどういうことかを熱く語り、生徒たちの作文の添削例を挙げ、“修学旅行”として作家の文章を探訪する旅を先導してくれ、あの手この手で「書く」ことの後押しをしてくれます。
もちろん実用的な側面も役に立ちますが、本書の特徴は、読者を挑発したり、持ち上げたりしながら、ともかく文章を書こうという気にさせてくれるところです。
たとえば、こんなふうに。

   時間がない、は言い訳ですよ。かくことがないよ、は逃げですよ。
  下手だから、は気取りですよ。書いてもしょうがない、は弱気ですよ。
  現実が先だ、はごまかしですよ。
   さあ、でんと腰を据えて、「自分」と向き合おう、決闘しよう。他
  ではないここにいるその自分と。


著者があんまり本気なので、こちらも気を入れていないと、ちょっと引いてしまう場面があるかもしれません。
私が一瞬引いてしまったのは、小説教室の生徒さんの作品を読んだときです。
突然、あまりにも官能的な表現が登場し、直前までの著者の文章と落差が大きすぎて、ちょっとびっくりしました。こちらは、教室でかしこまって講義を聴いていたのに、急にエロチックに場面転換されてもねえ……。
まるで、淡々と史実を書き連ねている歴史教科書の中に、突然ドラクロワの『民衆を導く自由の女神』が登場したようなものです。おっぱい丸出しの女性を見て、「こ、こんな絵が教科書に載ってていいのかなあ」と戸惑う少年のように、ドギマギしてしまいます。


でも、教科内容に熱中している先生は、生徒が不純な感想を持っているなんて気がついていません。
著者からすれば、小説に官能的表現が登場するのは当たり前なのでしょう。優れた小説は、日常生活の中で、心の奥底に押さえつけられている欲望や衝動を解き放つ役割を持っているのですから。その先生役が躊躇したりニヤニヤ笑っていては、恥ずかしさが倍増してしまうのです。きっと。


先生は、熱いですよ。覚悟してお読みください。