著者:河本 準一 出版社:ワニブックス 2007年5月刊 \1,365(税込) 171P
お笑いコンビ「次長課長」でボケ役担当の著者が、母子家庭で育った自身の貧しい生い立ちを綴った本です。
帯に、
「これは、オカン、オカンの中に生まれたオヤジ、
そして俺との三人の物語だ」
とあります。
ん? どこかで聞いたことがありますね。
そうです。
ベストセラーになったリリー・フランキー『東京タワー』の副題
「オカンとボクと、時々、オトン」
をもじっています。
本書は、『東京タワー』の2匹目のどじょうをねらい、ついでに島田洋七の『佐賀のがばいばあちゃん』の2匹目のどじょうもねらっちゃおうという出版社の下ごころミエミエの本です。
でも、実際に読んでみると、なかなかいい線いってますよ。
なにしろ、主人公き生き方がエライ!
オカンの苦労も知らずお金の無心ばかりしていたリリー・フランキーよりはるかに親孝行だし、人気が失われるまで“がばいばあちゃん”の偉大さを忘れていた島田洋七に比べると、テレビ局を飛び回る忙しい毎日のなかで親への感謝の心を忘れない著者のやさしさが光っています。
柳の下にどじょうは3匹いるそうですから、立派に2匹目の座を占めるかもしれませんよ。
では、本の内容に入りましょう。
父が会社経営者という裕福な家庭に生まれた準一少年は、両親と姉の4人家族で幸福な少年時代を過ごしました。9歳のとき、幸せな家庭は、父親が不倫に走ったことで修羅場と化します。
親族を交えた家族会議の末に両親は離婚してしまい、オカンと“俺”は住み慣れた名古屋から母親の故郷の岡山県に引っ越しました。
オカンは、はじめスナックに勤めていましたが、やがてスーパーの鮮魚部で肉体労働するようになりました。パンチパーマでたくましく働く姿はまるでオッサンのようです。
本書のタイトル「一人二役」というのは、母親が父親の役割も果たしていたことをさしていますが、精神的に父親役を兼ねていただけでなく、オカンは外見上もオヤジになってしまいました。
そんな、ちょっと複雑な家庭環境のなか、お調子もので甘えん坊だった“俺”は、「絶対に、オカンを泣かすようなことはせえへん」と誓う孝行息子になりました。
欲しいものがあっても我慢する。
学校でイジメに遭っていても、絶対にオカンには言わない。
仕事から帰るとキッチンドリンカーに変身するオカンの話し相手になる。
準一少年は、反抗期もなく、親を煙たがったりすることのない、けなげな少年でした。
中学でバレーと野球、高校でサッカーに熱中し、青春を満喫した準一少年は、試合に負けた挫折感の中で「お笑い」に巡り会い、吉本興業の養成スクールNSCに入ります。
幸いにも売れっこ芸人になったあと、準一青年は20年ぶりに父と再会します。孫に会わせる、という名目で顔を合わせたことをきっかけに、少しずつ関係が修復されていきました。
とうとう、今年の正月、芸人河本一家、河本夫人の両親、オカン、おネエの家族、オヤジの新しい家族など総勢24名が一堂に会する「志摩スペイン村」大旅行が実施される運びとなりました。
オヤジとオカンの13年ぶりの再会と和解、親族一堂の号泣。
2泊3日の旅は、浄化されるような涙が降り注ぐ珍道中となりました。
お笑い芸人のタレント本なんて……、と思っている方も、先入観を捨てて手に取ることをお勧めします。
著者の少年時代の苦労話あり、青春時代の不安と葛藤あり、お笑いの成功物語あり、入り組んだ家族の癒しの物語あり。本書は、いくつもの読みどころを持った本です。
他にも、お笑いファンにうれしい、次のようなトリビアも載っていました。ちょっとだけ、おすそわけしましょう。
その1――お笑いコンビ「次長課長」は、はじめ「次長課長社長」のトリオ
だった。
その2――吉本興業の後輩、フットボールアワーの後藤は、河本のオカンを
本当にオヤジとまちがえたことがある。
その3――河本と俳優のオダギリジョーは小学校3年生以来のつきあい。
小学校5年生のとき、学年の人気投票で河本はチェッカーズや
光GENJIを押さえて1位になったことがある。もちろん
オダギリジョーを含む校内男子の中でトップである。
その4――お笑いコンビ「次長課長」の相方である井上とは、中学の野球部
で出会った。井上は、全国大会出場経験を持ち、野球の腕前は
はるかに上だった。