副題:ヒトの心とサルの心はどう違うのか
著者:金沢 創 出版社:光文社 2006年11月刊 \1,470(税込) 215P
松山真之助さんは、メルマガ Webook の中でよく「MOSO」ということばを使います。
「これが実現したら楽しいだろうな」
「こんなことになったらステキだな」
という、ウキウキするようなことを考えていると、そのうち実現するかもしれない――というような意味で使っておられます。
会ってみたい著者のところに出かけていく、なんていうのは朝メシまえ。
このMOSOパワーで松山さんは、ジェイカレッジという有名講師のお話を聞く講演会シリーズを開催してますし、王ジャパンがWBCで優勝した感激をインターネット上で募って製本して選手や監督に手渡しするという「100万人の感動プロジェクト」を実現しています。
極めつけは、メンバー112人が1万円ずつ出しあい、全員で原稿を書き、編集作業を分担して『100人100冊100%』を作ったこと。参加者にはネット上でもアクティブな活動をしている人たちが多く、『100人100冊100%』でgoogle検索すると、いま71,600件もヒットします。東京と大阪で出版パーティーを開いただけでは飽きたらず、今度はみんなでパリへ行こう! なんていう話も盛り上がっているくらいです。
この、松山さんの「MOSO」の由来はなんだろう? と疑問に思っていたところに、『妄想力』なんていう本を見かけたのですから、これは読まずにはおられません。
さあ、読了しました。
先にご報告しておきますが、この本で言う「妄想」は、松山さんの「MOSO」とはちょっと違う考え方でした。
著者は人類の進化をテーマに研究を重ねてきた学者さん。副題を見れば分かる通り、本書はヒトの心とサルの心の違いを追求した心理学の本です。
でも、大学助教授の書いた本なのに、読みやすくて分かりやすい。しかも面白い!
すっかり「ヒトの心の進化論」に興味が湧いてしまったのも、「MOSO」のおかげです。
著者は京都大学の霊長類研究所で学生時代を過ごしました。人類はこんなに数が増えて繁栄しているけど、サルとの違いって何なんだろう。ヒトの特徴っていったい何? というのが学生たちの共通の話題でした。
その頃から著者が考えていた答えが本書に明かされています。
脳科学で言うと大脳新皮質こそが人類の特徴なのですが、思考の内容の違いで言うと、「一つのものを見ても、複数の可能性を考え、未来をあれこれと想像する。こういった能力こそがヒトという生物の最大の特徴」だそうです。
あれこれと考えを巡らす能力のおかげで、どうやらヒトだけが、相手の気持ちとか相手が何を考えているかを想像して理解しようとする。この相手の意図を読む能力こそがサルとヒトの決定的な違いである。と著者は断定しています。
この「あれこれ考える力」を著者の金沢博士は「妄想力」と命名しました。
人類の歴史に比べれば、文明の歴史はほんのわずかですが、それでも妄想の現れ方は、文明によってちょっとずつ違います。
たとえば、西洋文明は「はじめに言葉ありき」と言葉をとても大切にする文明なのに、日本文化は言葉より実際の気持ちが大事にされます。17文字で風景描写する俳句のように、言葉を切り詰めて、情景や感覚を描くことのほうが、論理的に心境を表現するより重用視されるのです。
この伝統は、生まれたときからテレビがある若者世代にもしっかりと受け継がれていますので、日本は“見た目が9割”という文化になりました。
ハリウッド映画に出てくる西洋人の表情を大げさに感じる日本人は、西洋人から見ると感情をちょっとしか表情に表わさない人種です。口や眉のちょっとした動きで相手の喜びや悲しみや嫌悪観を察しなければならないので、海外からの留学生はなかなか日本人が何を考えているのか察することができません。
こういうことを考えていくと、引きこもりという現象が日本にしか存在しないことも説明できるのだとか。
金沢博士は、「妄想力」こそが人類が発展してきた原動力と考えています。
たとえば、人類が空を飛べるようになったこと。
記録によると、背中に羽をつけてエッフェル塔から飛び降りた人がいました。きっと、本人は「こうすれば飛べる」と本気で思ったのです。そんな冒険野郎、妄想野郎が時々あらわれては、いろんな方法を試してみる。たまたまライト兄弟の妄想がうまくいって、人類は空を飛べる方法を伝承することができました。
やっぱり「妄想」は大切なことが分かりました。
でも、命を落とさない程度に、ほどほどに……。