副題:テレビ・新聞を呑み込むネットの破壊力
著者:佐々木俊尚 出版社:宝島社新書 2006年8月刊 \756(税込) 253P
インターネット関連本は、いま「Web2.0」の花ざかり。本屋さんへいくと、タイトルの一部に「Web2.0」をつけた本が山のように積まれています。
私もIT業界人のはしくれですので、このブームの行き先に大いに興味をもっています。
うーん、どれにしようかなあ、と悩んだ末、手にとったのが本書です。
この本を選んだ理由は、技術そのものよりも、社会的影響を中心に論述しているからです。著者は理系出身ではなく、新聞記者時代に社会部でサツ回りを経験したという、Web2.0を語るにはちょっと変わった経歴の持ち主です。約10年の新聞記者生活のあと、月刊アスキーを経て、現在フリー。
最近はIT企業取材に集中しているようで、この半年で4冊もIT関連本を出版しています。
4月に出した『グーグル Google - 既存のビジネスを破壊する』では、インターネット上の世界(梅田望夫氏のいう「あちら側」)だけでなく、石川県のメッキ工場や羽田の駐車場のような、ITと全然関係なさそうに見えるローカルな会社がGoogle を利用して広告を出すことによって利益を出すことができた、というリアルな世界の実例をルボしていました。
本書は、タイトルが示すとおり、Web2.0と呼ばれるインターネットの新しい波について考察し、この現象は泡のように消えていく運命にあるのか、それとも現実の社会に影響を及ぼしていくのか、著者なりの考えを披露しています。
今回は、インタビューや取材を前面に押し出すタイプの書き方ではなく、インターネットの将来を論述しながら、さりげなくインタビュー相手の言葉を引用していました。
本書が取りあげるWeb2.0に関連する話題は、多岐に及んでいます。
・ウェブは、世の中を変えるのか
・活字を読む文化が復権しつつある
・マスコミは、テレビは生き残っていけるのか
・ウェブの世界の不思議な人びと
・ウェブに関わる事件と、個性的な関係者の分析
興味深い話題に、それぞれ技術一辺倒ではない独特の見解を示しているので、読みながら「ああ、そうなのか」とうなずいたり、考えさせられたりしました。
特に印象に残った箇所をふたつ挙げて要約させていただきます。
一つめ。
年間2兆円もコマーシャル収入のあるテレビ局は、インターネットの動きに感心が薄いように見えます。しかし、長期的に考えると、テレビが今のままの規模と影響力を持ち続けることはできません。
いずれ滅びるかもしれないのに動きがにぶいテレビ局は、まるで、かつて地球上を支配していた恐竜のよう。
いくらネズミやリスのような小型ほ乳類が「おまえらはもうすぐ滅びるんだぞ!」とかみついたとしても、「うるせえなあ」と遠くに投げ飛ばしてしまうだけなのです。
2つめ。
ライブドア事件の本質というのは、モラルからルールへと社会の基本概念が移り変わっていくうえでの「軋み」のようなもの。
日本には昔から素晴らしい「モラル」があった、という人もいますが、実際は単なる「相互監視と相互規制のしくみ」によって成り立っていただけです。これからの日本は、きちんとルールを作らなければならない、と戦後一貫して、日本の有識者たちは言い続けてきました。
ところがいざルール型社会に移行してしまうと、今度は手のひらを返したように「やっぱりモラル型社会が良かった」と懐かしんでいるのが、ライブドア事件に通じる懐古趣味なのではないでしょうか。
多くの「Web2.0」本の中で、割といい本を選んだように思います。
技術よりITの社会的影響に興味のある方にお薦めです。