著者:中村うさぎ 出版社:角川書店 2005年12月刊 \1,365(税込) 205P
「中村うさぎ」という作家は、かつて、
借金しながらブランド物を買いあさる女
として勇名を馳せました。
その後、ホストに狂い、整形手術に走り、そしてついに風俗(デリヘル)に手を染めるという“愚行”を繰り返す著者。
本書は、愚かな行為を仕出かす自分自身を「愚者」と呼び、当の愚者がどのような衝動に突き動かされて愚挙を繰り返すのかを考察する、とても内省的な一書です。
テレビ出演で見せる著者の悪ふざけの延長を予想して本書を手に取る人もいると思いますが、油断してはいけません。文語的な硬い文体も相まって、本書は「哲学的な香り」を漂わせています。
“愚者”は、並外れた欲望・衝動を持って生まれてきた、と著者は分析します。“愚者”は、欲望の対象を手に入れたとたんに、それを無価値なガラクタと感じてしまいます。 はじめはブランド物を次から次と手に入れていた“愚者”でしたが、やがて買い物で欲望を満たす、という行為そのものに飽きてしまいます。
著者は問います。
世界を創造したのは何者か? 我を創造したのは何者か?
“愚者”は答えます。
世界も我も、何者かの意志によって生まれたものではない。
生まれたからには生きていかねばならず、そして、その生きていく
過程で、我々自身が己の人生に価値を与えていけばいいのだ、と。
そして、
「誰の役にも立たなくても、何事も成し遂げられなくとも、
生まれてきたことにも生きていくことにも価値はある」
「『より良い未来』とは、『価値ある未来』ではなく『意味ある未来』
だと愚者は思う。そして、『意味ある未来』は『意味ある過去』なしに
存在し得ないのだ」
という結論に達します。
えっ? これが、あんな破滅的な人生を送ってきた著者の結論?
意外に真っ当な人生観に驚いてしまいました。
著者は、最初の結婚に失敗しています。
自分の性向に反し、愚かにも
「自分の野望を犠牲にしても、男に奉仕するのが『いい女』である」
という無理を重ねてしまったのです。
その後、2度目のパートナーに選んだのは、なんとゲイの男性。普通の夫婦と違い、セックスは家の外で行うもの、という前提で暮らしています。
著者を女としては愛してくれない夫ですが、予想に反し、繰り返す著者の愚行を許し、受け止めてくれる「人間として愛する術(すべ)」を知っていました。
著者は、どれだけボロボロの人生を送ってきたか、を延々と述べてきました。でも、今はゲイの夫に慰められながら生活しているのですね。難しい言葉を使って、人生をゴチャゴチャと理論だててきましたが、要は、本書は体のいい“おのろけ”という要素も持っているようです。
人に後ろ指を指されながらいろいろ悪いこともしてきた。
最初の夫はひどいヤツだったし、ブランドに走って借金も背負った。
でも。でも、今の夫は優しくて、私は、いま最高にしあわせ!
……と天下に放言しているのかも。
先入観を抑えてご一読することをお薦めします。