かもめ食堂


著者:群 ようこ  出版社:幻冬舎  2006年1月刊  \1,299(税込)  204P




出版業界の常識をくつがえす業績を上げ続けている幻冬舎ですが、いよいよ「メディアミックス」をはじめたのでしょうか。本書は、3月11日に封切られた同名映画の原作で、映画公開の2ヶ月前に出版されました。
本の帯には、主人公を演じる小林聡美片桐はいりもたいまさこの3人が波止場に腰掛けて風船を手にしているノンビリとした写真が載っていて、「映画の原作」であることを強調しています。
トレンディードラマに出るような女優さんと違い、3人とも穏やかな雰囲気の個性派女優です。きっと「ホッ」とする本なんだろうな、と期待して手に取りました。


読みました。
期待通り「ホッ」とする本でした。


道家の父に育てられたサチエは、あまり強くなると跡継ぎさせられるかもしれない、と、合気道をやめました。どうやって生きていこうか、と考えたサチエが決めたのは、フィンランドで食堂を開こう、ということでした。
どうしてフィンランドなの? って考えないでくださいね。本書に理由らしきものも書いてありますが、そんなことどうでもいいじゃありませんか。


サチエは、異国で店を開くために着々と準備し、実際にフィンランドの首都ヘルシンキで食堂の営業をはじめました。一人だけ、日本語を学ぶ青年が常連になってくれますが、地元の人は、警戒して「かもめ食堂」に近寄りません。遠くから新しいお店を観察しています。


客の少ない「かもめ食堂」なのに、やがてミドリという日本人が手伝いをするようになりました。
ミドリは、
  「世界地図を開いて、目をつぶってエイって指さしたところが
   フィンランドだったんです」
という理由でやってきた旅行者でした。
どうしてフィンランドなの? って考えないでくださいね。


少しずつ客の増えてきた「かもめ食堂」に、今度はマサコという日本人がやってきて、やっぱり居着いてしまいました。マサコがフィンランドにやってきた理由は……。
もういいですね。


おいしい料理と、こころのこもった「いらっしゃいませ」がやがて地元の人にも受け入れられ、店は繁盛するようになりました。
強盗稼業の悪いやつがやってきて、従業員が女性だけの店、ということで「かもめ食堂」に目をつけますが……。


群ようこは、知る人ぞ知るエッセイストですが、本書を手にする人は、著者のファンよりも、映画に出演している小林聡美もたいまさこ のファンの方が多いのではないでしょうか。


小林聡美は、脚本家の三谷幸喜の奥様で、『マダム小林の優雅な生活』や『マダムだもの』なんていうエッセイも書いています。最近も日本テレビ水曜夜10時からの『神はサイコロを振らない』に主演。いい味出してましたが、このドラマの最終回には もたいまさこ もラーメン屋台の女将としてチラッと出ていましたよ。
ご存じの方も多いと思いますが、二人は『やっぱり猫が好き』という1988年10月から1991年9月までフジテレビで深夜放送していた番組で共演していました。長女もたいと三女小林の2人姉妹が暮らすマンションに、次女の室井滋がやってきて繰り広げられる、シチュエーションコメディです。


番組が終わっても3人仲良しだそうで、同時に3人揃うことはめったにありませんが、もたいと小林、もたいと室井、というふうに二人でよく会っているとのことです。(先週末の『メレンゲの気持ち』にゲスト出演した もたいまさこ が言ってました。私もよくテレビ見てますねー)


かもめ食堂』を読んでいると、サチエは小林聡美、マサコは もたいまさこ とすぐに配役が分かりました。
群ようこも、きっと配役を目に浮かべながら書いたのでしょう。
そういう意味では、小説というよりも脚本に近いのかもしれませんね。


異国の地にあって、毎日ふつうで、おいしくて、小さいけれど堂々としている「かもめ食堂」のお話でした。


「ホッ」としたい方にお薦めです。