使える弁証法


副題:ヘ−ゲルが分かればIT社会の未来が見える
2005年12月刊  著者:田坂 広志  出版社:東洋経済新報社  \1,575(税込)  197P


使える 弁証法


私が田坂さんの本を取り上げるのは、これで3回目です。
最初に取りあげた『未来を拓く君たちへ』(5月9日のブログ)も、『仕事の思想』(11月21日のブログ)も、人生を生きる姿勢、仕事をする姿勢について語ったものでしたが、本書には「どうすばIT社会の未来が見えるのか」という、現実的テーマが掲げられています。
著者の本業はシンクタンク・ソフィアバンクの代表ですから、実は本業は「生き方」よりももう少し現実的な「未来予測」で、『これから日本市場で何が起るのか』とか『これから知識社会で何が起るのか』という未来を予見した著作もあるのです。
読者から「どうすれば、未来が見えるのか」という質問を受けることも多い著者が、自身の思考の道具を明かしたのが本書です。


著者が未来を予見するとき、特別な調査や分析は行っていません。では日常のニュースを克明に追いかけているかというと、そうでもありません。市販の書籍の他は「ときおり目に入る新聞や雑誌の記事」とか「たまたま目に入るテレビの番組」を情報源にしているだけです。
ただ一つ使っているのは「弁証法」という哲学的思索だけなのです。


弁証法というとヘーゲルですが、ふつうの人は「正・反・合」とか「アウフヘーベン」という単語を知っているだけですから、生半可な知識を口にすると恰好つけているようでボロが出てしまうでしょう。
弁証法を深く読み解いた著者は、自身が弁証法を身につけた経緯にはいっさい触れず、最低限の用語だけを使って身につけたエッセンスを語っています。


私がピックアップしたキーワードをいくつか紹介します。
   「物事は、螺旋的に発展する」
   「未来進化5」と「原点回帰」は、同時に起る
   「進化」の本質は、「多様化」なのです
   「存在するものは合理的である」
   「知識社会」とは、「知識が価値を失っていく社会」
   「矛盾」とは、物事の発展の原動力である
    歴史もまた、螺旋的に発展していきます


ものごとが直線的に変化していく、という固定観念をくつがえし、新しい発見を産む考え方が知らず知らずに身につきます。
著者と対話するつもりでご一読ください。