CIA 失敗の研究


2005年6月刊  著者:落合 浩太郎  出版社:文春新書  \756(税込)  241P


CIA 失敗の研究 (文春新書)


青木冨貴子著『731』(10月31日のブログ参照)を読んで印象に残った言葉のひとつに、
  「民主主義と人道主義を掲げるはずのアメリカ合衆国政府が、
   実は、自国の安全保障のためには手段を選ばないという裏の
   顔をさらけ出す」
という記述がありました。
CIAというのは、それこそ「手段を選ばない」活動を行う組織です。そのCIAが最近失敗を重ねている? と本書のタイトルが気になり、手に取ってみました。


CIAというと、ソ連KGBと丁々発止のスパイ戦を繰り広げている、というイメージがありますが、本書は「この世界ほど、映画や小説と現実がかけ離れているものはない」という関係者の発言を冒頭に掲げています。
そもそも、諜報機関の仕事は幅広く、大別すると「情報収集」「分析」「秘密作戦」「防諜」の4つに分類され、スパイ(人的諜報)活動は「情報収集」の手段の一つに過ぎません。しかも、アメリカにはCIA以外にも諜報機関が多数存在し、合計15の機関がナワバリ争いを繰り広げているとのこと。
本書では、第二次世界大戦後にスタートした「冷戦」という時代を背景にCIAがスタートしたこと、どのような組織でどのような活動を行っているか、等の基本的な解説をしてくれます。また、冷戦の終結と共に、「失われた10年」という冷遇された期間に突入したこと、自らの過ちや責任を認めない体質や官僚主義に根強く染まっていることなど、近年のCIAの問題点を紹介しています。


本書を通読してあらためて実感したのは、諜報機関というのは非合法的手段も用いることがあり表に現れない存在だ、ということです。そういえば、日本の忍者も隠密で行動していましたね。そのせいでしょうか、諜報の世界では「失敗は喧伝され、成功は語られない」とのこと。
それにしても、9.11テロの徴候を見過ごしたCIAとブッシュ大統領の責任は重く、著者は、
   「『改革』では不十分であり、『革命』が求められている」
とまで言っています。


私はスパイ映画をあまり見ませんしCIAに詳しくもなかったので、新しい発見があって、単純に興味深く読ませてもらいました。
たとえば、今のブッシュ大統領の父親(米国第41代大統領)がCIA長官を経験していることは知りませんでした。
また、政治的なスパイ行為だけでなく、同盟国相手に産業スパイまがいの行為も行っている、というのも初耳でした。さすがに手段を選ばず、何でもするんですねぇ。


ちょっと笑っちゃったのが、CIAの科学技術本部で行っている研究活動です。1970年代にはソ連に対抗して超能力の研究を行っていたそうです。そういえば、『刑事コロンボ』でも、超能力を軍に売ろうとする犯人がいましたね。この研究は、あえなく失敗しましたが、科学技術本部ではこの他にUFOを大まじめに研究したりもしています。
実用的かもしれない(?)のが、敵国の政府幹部宅に侵入する際に番犬を性的に誘惑する香水や、猫に付ける盗聴器です。映画でも発想しないようなスパイ道具ですが、実現しませんでした。


安全保障や官僚主義について考えさせられ、おまけにちょっと笑わせてくれる本でした。