幸せな動物園


2005年9月刊  著者:旭川市旭山動物園監修 
出版社:ブルースインターアクションズ  \1,380(税込)  119P


幸せな動物園


しばらく暗い話題の本が続きましたので、今回は気分を変えて、とても幸せな動物園のことを書いた、とっても幸せな本を取り上げます。


幸せな動物園とは、旭川市にある旭山動物園のことです。
この動物園の来場者数が、あの上野動物園の来場者数を越えた、というニュースを耳にした方も多いと思います。北海道の地方都市という立地条件なのに、規模も大きくパンダなどの人気動物を抱えた上野動物園の入場者数を超えたのはなぜでしょうか。
それは、来場者が「来てよかった」と幸せな気持ちになるから。「友だちにも、教えてあげよう」「もう一度来よう」と思うからです。
その幸せの秘密が、本書に明かされています。


旭山動物園は、1967年(昭和42年)に開園しました。当時は動物の姿を見られるだけで貴重だった時代で、コンクリートと鉄柵でできたオリの中に動物は押し込められていました。
開園して30年もすると日本のどこでも見られる、来園者もまばらな動物園になってしまい、寝てばかりいる動物たちをなんとか反応させようと、来園者の中には大きな音をたてたり、エサや石を投げ入れたりする人もいました。
多くの人の「可哀想」とか「つまらない」とかいう感想に誰よりもくやしい思いをしていたのは、動物たちのいちばん近くにいる人たちでした。
どうすれば来園者に感動してもらえるか、どうすれば自分たちが知っている動物たちの素晴らしさを伝えることができるのか。職員たちは、自分たちならこんな動物園を作りたいという夢のスケッチを書きはじめました。


予算のあてもなかった夢のスケッチは、1997年を皮切りに、一つずつ形になりはじめ、動物の素晴らしさを感じた来園者が少しずつ増え始めました。
本書には、97年にオープンした「こども牧場」「ととりの村」、98年オープンの「もうじゅう館」、99年「さる山」など、工夫をこらした全部で9つの新獣舎が紹介されています。


スケッチと写真と説明文というシンプルな形式で書かれていますが、職員たちの「この動物は、こんなに素晴らしいんですよ。その素晴らしさが伝わるように、こんなに工夫しましたよ」という情熱が伝わってきます。


本書を貫いているのは、「動物園に暮らす動物に最大限のことをしてあげたい」とういう想いです。きっとその本気さが伝わってきて、幸せな気持ちになれるのでしょう。
見ているだけで幸せな気持ちになれる本でした。
あー、旭川まで見に行きたくなっちゃう!


話は変わりますが、本書を読んで、かつて牛たちと過ごした日々を、私も思い出しました。
以前にも書きましたが、私の実家は北海道で酪農を営んでいました。
当時のことを思い出すと、農作業の手伝いは辛いことが多かったのですが、牛と触れ合うのは楽しいことでした。
つぶらな瞳、手を近づけるとチュウチュウ吸ってくれる大きな口とザラザラした舌、隣の牛と牧草の奪い合いをする鋭い角、草を食べ終わった後モグモグして反芻する大きなアゴ、虫を追い払うためにいつもパタパタ動かしている耳。
牛の体温はあったかかったなぁ。懐かしいです。
でも、長男の私が普通高校へと進み、大学進学・本州(北海道の人は“内地”と呼びます)への就職と続く道を選択してしまったので、我が家は酪農をやめてしまいました。
あまり私には「懐かしい」という資格はないのですが……。