自信力が学生を変える


副題:大学生意識調査からの提言
2005年6月刊  著者:河地 和子  出版社:平凡新書   \798(税込)  217P


自信力が学生を変える―大学生意識調査からの提言 (平凡社新書)


著者略歴によると、河地氏は「経済・社会的にパワーを持たない側の視点に立って研究を続けている」とのこと。社会的弱者といわれる人たちの立場に立って、なぜ弱い立場に立たされているのか、どうすれば改善されるのか、という研究をしておられるのは立派なことだと思います。強い使命感で取り組んでおられるのでしょう。


本書は、膨大なアンケートとインタビュー調査によって明らかになった大学生の実像を基に、「自信力」を高めるために学生一人ひとりがどう行動したらよいか、大学はどのようにサポートすべきかを示す提言書です。
現代の大学生は「遊んでいる」「遊ぶ金ほしさにバイトばかりしている」というお気楽なイメージとは違い、明らかにまじめになってきているそうです。その一方、自信がなさそうで、どこか思い悩んでいる学生の数が増えているように感じた著者は、この二つに何か因果関係があるのではないか、という疑問を解明するため今回の調査に着手しました。


本書を開いてみると、各ページの下から四分の一に分割線が引いてある、という珍しいページ構成で、ちょっと驚きます。上段が本文、下段がインタビューです。
本文の後にインタビュー、またはインタビューの後に本文という順番にして、普通の本の構成にしたがって書いてもよかったのかもしれませんが、著者は敢えて1ページを二つに分けました。それは、インタビューの内容に即して本文があり、あまりページを繰らなくても本文の分析に対応したインタビューが読める、というメリットがあるからでしょう。(著者は前著『自信力はどう育つか』でも本文を上下2段に区切っていました)
2104人へのアンケートと93人へのインタビューを著者自身が行っただけあって、この下段の内容からは、答える大学生の現実――自分自身に対するはがゆさ、自信のなさ、何かを成し遂げた充実感など――が、生々しく伝わって来ます。久しぶりに若者のナマの声を読み、そういえば、自分も大学時代によく不安になったり、苦しんだり、苛立ったり、逆に有頂天になったりしたことがあったなぁ、と思い出してしまいました。ついつい、上段よりも下段を先に読み進み、何ページか後戻りして上段を読む、という忙しい読書をしてしまいました。この迫真のインタビューが本書の命です。


著者は、アンケートとインタビューを分析した考察した結果、もっと自信力を高めるためにどうしたらよいか、という方策を、大学生と大学側の双方に提言しています。詳細は本書に譲りますが、大学生に対しては「もっと積極的にチャレンジせよ」、大学側には「研究主体ではなく、もっと“教育”に力を入れて学生の満足感・達成感を上げるような授業をせよ」という提案です。
学生も大学当局も、この提言を真摯に受け止めれば、充実した大学生活を送れるようになるでしょう。日本の将来のためにも全ての学生に頑張ってもらいたいものです。
「負けるな、大学生!」と著者と一緒にエールを送りましょう。


以下、個人的感想です。
本当に著者の使命感、「日本の大学生の自信力の低さを何とかしよう」という姿勢には頭が下がります。
ただ、私自身が学生だったのは、もう四半世紀前ですし、我が子が大学を受験するまであと15年もありますから、個人的にはちょっと切実さを欠いたテーマでした。また、「四半世紀前の大学生」としては、読んでいる途中から、なんだか本書の主張に違和感を感じる部分もありました。この居心地の悪さはどこから来るのでしょうか。


まず感じたのは、大学生というのは“パワーを持たない弱い立場”なのか、という疑問です。確かに多くの若者が大学へ通っていますが、それでも進学率が5割以下であることは間違いありません。進学できない人の方が多数派ですから、大学生は“恵まれている”方に分類して良いと思います。自信力を回復させるためにも、「自分の立場を感謝する」という項目が真っ先に来てもよかったのではないかと感じました。
もう一つは、学生に対する提言がやや紋切り型に聞こえることです。たとえば、「授業が面白くなくても私語、メールチェックなどは止めよう。(中略)授業改善への要望を教員に直接出してみよう」と言っています。しかし、何十年も旧態依然とした授業をしてきた教員が、一人の学生の要望で変わる可能性はほとんどゼロです。この助言を本気にした学生が、「どうせ教員に言っても通じない」「そんな行動を取ることで仲間から浮いてしまった」と後悔する様子が目に浮かぶようです。これでは、本書を読んだ学生が、「なーんか、タテマエしか書いてないなぁ」と感じてしまうのではないでしょうか。
3つ目は、大学生たちが自信を失って落ち込んでいる状態を「良くない状態」と捉えて、そのような状態にならないことを目指し、なっても早く「立ち直る」ことを目標としていることです。しかし、自己嫌悪に陥って苦しむ中から新しい自分が生まれてくる、というのも若者の特権です。もっと「今は自信がなくてもいいんだよ。そのうち何かふっきれるから大丈夫!」と励ましてあげることによって、早く「目が覚めた学生」になるのでは?
他にも、「就活」という最近の略語がイヤ! googleで「就活」が120万ヒットもしますから、もう定着した言葉のようですが、ワシの時代は「就職活動」もしくは「会社訪問」と言ってたゾ! ……いかん、いかん。完全にオジサンになってる(汗)。


まあ、一介のサラリーマンが大学教授にこんなふうに物申すのも、かつて自信力のなかった学生が今は自信力を回復している証拠、……ということで河地先生ご容赦ください。