KAZEMACHI CAF´E


副題:松本隆対談集
2005年4月刊  著者:松本 隆  出版社:ぴあ   \1,890(税込)  355P


松本隆対談集 『KAZEMACHI CAFE』


1949年生まれ、今年56歳の松本隆は、音楽や出版メディアでいくつかのジャンルと世代をまたいだ活動をしてきた人です。
69年、「はっぴいえんど」のドラマー&作詞家として、日本語のロックを立ち上げた後、歌謡界に転じて松田聖子や「ルビーの指環」のヒット曲を飛ばします。85年に処女小説『微熱少年』を書き下ろし、98年、自身の公式サイト「風待茶房」を開設しました。


本書は、著者の音楽関係の友人たちを中心に、詩人、F1監督、漫画家、建築家など多彩な友人が登場して、リラックスした会話を聞かせてくれる対談集です。


曲を作るとき、歌詞を先に作ってからメロディーを詞に合わせて作っていく方法(詞先)と、先に曲を作ってからメロディーに合わせて歌詞を作っていく方法(曲先)があります。どっちが歌謡界で多用されているか知っていますか? 筒美京平氏は、「もう99%曲が先だし、詞先なんてやらないよね」と言っています。これは、何も筒美京平氏が大御所だからではなく、松本隆によると「やらないんじゃなくて、やれないんだよ。そんなスキルがないもの」と、力不足の作曲家たちをバッサリ。
ユーミン松任谷由美)との対談でも「あの頃は曲先だったけど、一曲だけ『秘密の花園』が詞先だったんだよね」と言っています。
かといって相手に合わせてばかりいるわけではなく、自分の感性が許さないとテコでも動かない頑固者でもあるようです。
コメディアンの藤井隆のCDアルバム作りをしたとき、藤井隆が歌詞の一部に対して「この言葉はイヤです」と言ったことがありました。その時は松本隆自身も「この言葉はメロディーに合わないな」と思い返し、一部だけ変えるのが納得できずに、結局、全く新しい歌詞を作りました。
藤井隆が「(あの時は)本当にすみません」と対談で謝ったところ、松本隆は「僕はキレたら本当にキレちゃう人だから。そうなると、そのときはプロジェクト自体がなかったことになるから」と言っています。
やっぱり著者は自分の作った歌詞に絶対の自信を持っているし、仕事を途中で放り出すことのできる大御所なんですね。


「KAZEMACHI」とは「風街」であり「風待ち」です。地図帳を広げて、青山と渋谷と麻布を赤鉛筆で結び、囲まれた三角形を「風街」と名づけた著者は、その心地よい街で自分の美意識を羅針盤にして生きています。
学生運動が盛んな時期に、政治的であることを拒否しながら日本語のロックを試行錯誤。歌謡曲の作詞を始めたときには、周囲から悪く言われたりもしますが、着実に地歩を築きました。
困難な時期を乗り越えた著者が人一倍自信家なのも納得できます。


私は著者のほぼ一回り下の世代で、彼が作詞し大瀧詠一が歌った81年のアルバム『A LONG VACATION』を懐かしく思い出しました。
大瀧詠一は、このアルバムを振り返って次のように言っています。
   おれは前々から自分のことをヴォーカリストとして歌がうまいと思って
   たんだ。(中略)
   だから松本・大瀧作品で大瀧が歌ったものは絶対に飽きない。それはな
   ぜかというと、キラキラ光る部分が毎回違うように、乱数になるように
   仕掛けてあるから。他の人が歌ってもああはならない。
リラックスしすぎた発言を「(この話)絶対カットだよ(笑)」と言ってますが、しっかり掲載され、そのまま本になっちゃいました。


他に、俳優の佐野史郎が「はっぴいえんど」の熱烈ファンとして登場したり、詩人の谷川俊太郎と「詩」「詞」「歌」について語り合ったり。けっこう満腹する一冊でした。