けなす技術


副題:俺様流ブログ活用法
2005年3月刊  著者:山本 一郎  出版社:ソフトバンクパブリッシング   \1,575(税込)  179P


けなす技術


ネット上には様々な仮想社会が存在し、見知らぬ人と匿名でメッセージを交わしています。本書は、昨年から爆発的に利用者の増えた「ブログ」を話題の中心に据え、インターネットが現実世界に与える影響や、ネット上で議論が盛り上がるメカニズムを分析し、ネット上で何かを知り、感じ、論じるということの重要さを訴える、一種の啓蒙本です。


人を褒める・励ますという観点で書かれているビジネス本が多い中で、「けなす」ことをタイトルにした本書は目を引きます。
ネット上では匿名で批判的な書き込みをする人も多く、時に集団ヒステリーと言ってもよいくらいヒートアップすることがあります。しかし、けなすといっても、何の目的もなく「バーカ」と書き綴ることには何の生産性もありません。
著者は「けなす」ことの効用を、
  「問題点を素早く探り、その本質をえぐりだすほどのけなす力を持った人
   物の議論は正確で痛快である。それは、それさえ改善されれば全体の構
   造は飛躍的によくなることを保証しているという観点において、批判者
   は対象を実は愛していると言えるのである」
としています。更にネット上で発信することの価値を称揚して、
  「何かを知り、それに対して感じ、論じるということの重要さは、あなた
   という人格がこの時代を生きたという何事にも替えがたい価値として、
   この広いネットの中で輝いているのである」
と、書いています。


著者は2003年度の Blog of the Yeah! 大賞を受賞した人気ブログ「俺様キングダム」の作者。「切込隊長」というハンドルネームで書いている「俺様キングダム」は、単にアクセス数が多いというだけでなく、著者が1件記事をアップするたびに数百件の批判的コメントが書き込まれる状態です。作者自身が集団ヒステリーの中心になっていることを考えると、「けなす」ことをプラスに評価する発言には余裕が感じられます。
ただし、ブログがこのまま未来永劫ネットワーカーたちの情報ツールとして機能していくなどと驕っているわけではなく「いかに読み手を集められる書き手であったとしても、『時代の流れ』という必然からは逃れられない」と、自分の人気を客観視する覚めた視点も持っています。
ブログをネタにした本といえば「とにかくブログを書き始めましょう、そうすれば素晴らしい世界が広がっています」という内容が多いように思います。本書は、書き始めたものの更新されずに放置されるブログの多さ、更新されなければ誰も読んでくれなくなる厳しい現実を数値で示しており、「ブログを始めれば一躍有名人になるわけでもない」と、決して甘い夢は見させてくれません。
それでも「自分のためにブログを書く、(中略)書く習慣を通して自分の意見や考え方を整理することが、書き手にとって最大の財産になるものと私は信じる」と励ましてくれてもいます。


いろんな意味で“逆説的”表現が多く、ちょっと人を喰ったような内容もありますので、読み方によっては正体不明のイカガワシサを感じるかもしれません。しかし、非常に真面目にインターネットの社会的側面を議論している、と私は感じました。
ちょっと警戒しながら読んでみて下さい。