2001年12月刊 著者:天外 伺朗 出版社:明窓出版 \1,050(税込) 125P
アフリカを舞台にした、ココロにジーンとくる童話です。
小象のエレナは、おかあさんやおばあちゃんと一緒に、楽しく暮らしていました。
ある年、雨がほとんどふらない日が続き、ここいらで一番かしこいと評判のエレナのおばあちゃんを訪ねて、大勢のお客さんが来るようになりました。
どうやら「かんばつ」になってしまい、昔の「かんばつ」を生き抜いたおばあちゃんを頼って来たのです。
何百頭もの大きな群れを率いたおばあちゃんは、とうとう旅に出る号令をかけました。
通り道の景色は、だんだん緑から茶色に変わっていき、食べ物や飲み物がだんだん少なくなってきましたが、毎日毎日、歩き続けます。
歩けなくなる象は見捨てていかなければなりません。
「象はね。おなかがいっぱいで死んでいくのが、本当の死に方なんだよ。おなかがへったまま、死んでいくのは、とてもかわいそうなんだよ」
おばあちゃんのことばの意味がエレナに分るのは、ずっと後になってからです。
長い長い旅の果てに、おばあちゃんの知恵のおかげで、とうとう大きな緑の森に着きました。そこに待ち受けていた出来事とは……。
物語は、50年後に飛びます。
エレナはおばあちゃん象になり、子ども象や孫の象たちに囲まれて平和に暮らしていました。ある年、雨がほとんどふらない日が続き、大勢のお客さんがエレナを頼って訪ねてきました。
50年前の「かんばつ」を生き抜いたエレナは、旅に出る号令をかけました。夢の中に出てくるエレナのおばあちゃんに励まされ、やっとたどり着いた緑の森で、エレナは50年前の出来事のほんとうの意味を知りました。
エレナが知った50年前の出来事の意味とは……。
この童話は実話を基に書かれています。
物語には出てきませんが、アフリカでは象牙目当ての密猟により、今でも多くの象が殺されています。ダフニー・シェルドリックさんという方は30年前からケニアで「象の孤児院」を運営しており、親を失った小象を引き取り、母と子どものように育てているそうです。
ケニアとタンザニアが干ばつになって象が群れになって移動を始めたことがあり、その時にダフニーさんは本書と同じ経験をしました。
天外伺朗という著者名はソニーでCD(コンパクト・ディスク)やAIBOの開発を行なった土井利忠氏のペンネームです。
技術者として長年過ごしてきた著者は、本書の絵を担当している柴崎さんの象の絵を見て突然ストーリーを思いつき、数日間で書き上げました。著者自身が「書いている間中、ずーっと涙がとまりませんでした」と言っているくらいで、いい大人の心のバリアーを簡単に破ってしまう不思議な力を持った物語です。
ユングの集合的無意識、仏典のアラヤ識に通じる悟達の世界。論じるより感じる他ありません。
なお、本書の売上と印税の一部はダフニーさんの基金に寄付される、とのことです。