リチウムイオン電池物語

副題:日本の技術が世界でブレイク
2004年9月刊  著者:吉野 彰  出版社:シーエムシー出版  価格:\1,260(税込)  151P


リチウムイオン電池物語―日本の技術が世界でブレイク (CMC books)


携帯電話やノートパソコンに使われているリチウムイオン電池は日本で生まれた新技術だそうだ。本書はその開発者である著者が、開発の苦労話、発明・特許について“熱く”語ったものである。


開発者の苦労話というと「専門的な話が多い自慢話かお説教で、あまりおもしろくないもの」を想像するが、本書はちがう。著者の吉野氏は「科学者」に対して我々が抱いている堅いイメージとは正反対で、ユーモアも多くサービス精神に富んだ文章を書いてくれている。マンガっぽいイラストも笑いをさそう。
なかでも実験試料が原因で部下が刑事に事情聴取される、という事件には笑ってしまう。銀行強盗が使った手製の催涙スプレーの特殊な成分と部下が入手した試料がたまたま一致しており、来訪した“目つきの鋭い2人の男”に尋問された、というのだ。上長である著者が説明してやっと納得してもらったのだが、こんな事件が起こっても、刑事さんと名刺交換したのはこのときだけ、とメゲる気配もない。


もちろん、世界に通用する製品の開発をするのは大変な苦労を伴うのだが、つぎつぎと立ちふさがる課題にアタフタする様子を、「大変な暗礁に乗り上げた」とか「悶々とした正月」と赤裸々に述べているし、「気が付かなかった世紀の大発見」などと失敗体験も紹介している。
感動を押し付けることのない本書は、「笑って楽しめる“プロジェクトX”」である。


他にも、悪魔のサイクルとの正しい付き合い方、基本特許も大事だが関所特許はもっと大切、など開発者の参考になりそうな話題も豊富。得した気分になる本である。