著者:高濱 正伸 出版社:PHP研究所(PHP新書) 2013年5月刊 \798(税込) 211P
年間300冊の本を読む読書家であり、『ひげうさぎ先生の子どもを本嫌いにする9つの方法』の著者であるひげうさぎ先生が、『私立小学校お受験を幸福に導くための方法』という本をツイッターで紹介していた。(ツイッターの記事はこちら)
私立小学校の受験を通して、幸せになる方法が書いてあるらしい。
うちの娘は小学6年生なので、「中学受験編はありませんか(笑)」とツッコミを入れたところ、しばらくして紹介してもらった。それが本書、5月2日に発刊されたばかりの『中学受験に失敗しない』である。
なんとまあ、タイムリーなこと。
いま僕は、中学受験生の親として奮闘中だ。
土日に算数の問題を一緒に解いたりしてがんばっているのだが、塾で月に1度行われる理解度テストで、娘の成績は上がったり、下がったり、下がったり……。
本番まであと8ヵ月もあるのに、親が息切れしそうだ。
受験生活を通じて幸福になる方法があったら、ぜひぜひ知りたい!! という今の気持ちにピッタリの本だ。
昨年9月に、『中学受験の失敗学』という恐ろしいタイトルの本を読んで(僕の書評はこちら )、こういう親になってはいけない、という教訓を教えてもらった。
でも、反面教師に教えられるよりも、ストレートに「こうすれば良い」と言ってくれるほうがうれしい。
これは、いい本を紹介してもらった!
著者の高濱正伸氏は、クチコミで評判となってマスコミでもよく取り上げられている「花まる学習会」の塾長である。
1993年に設立した「花まる学習会」は、首都圏を中心に86教室を展開し、生徒数が1万人を超えている。
独特な教育法で評判となり、入室待ち3000人、というからすごい。
僕も去年の10月、中居正広の「金スマ」で高濱正伸氏が確信に満ちたようすで語る教育方針や授業風景を見て、魅力を感じた。近所に教室があったら、娘を通わせたい、と思った。
「花まる学習会」は、「生きる力を育てる」「メシの食える大人に育てる」を教育理念にしている。
そんな「花まる学習会」の塾長が「中学受験に失敗しない」と言うときの「失敗」というのは、単に志望校に落ちることを指してはいない。
「失敗」というのは、
せっかく、中学受験という、自分を高め、成長させる機会を得たはずなのに、それを生かし切れないことです
と高濱氏は定義する。
たとえ志望校に合格しても「失敗」することもあるし、不合格だったとしても、失敗にならないこともある。
では、中学受験の成功は何か、というと、
合格を目指しながらも、合否だけに振り回されることなく、受験期に誠実に勉強する習慣を付けることで得られる合格の向こう側にある収穫を大事に考えています。
収穫とは、我が子の成長と言い換えられるでしょう。
と、結論している。
ふつうの塾は、一度入塾した受験生を最後まで続けさせようとするし、少しでも難関校を受験するように仕向けるものだ。
しかし、高濱氏の主催する進学塾「スクールFC」では、子どもの成長ぶりを見て「親御さんに、高校受験に焦点を絞ることを提案」するし、「偏差値の高さにこだわり、我が子に必要以上の背伸びを強いる受験は、おすすめできません」とも言う。
もちろん、目の前の中学受験を乗り越えなくてはならないが、
大切なのは、中学受験そのものより、人生そのものであるはずです
という基本を忘れてはならないのだ。
そうだ。その通りだ!
我が子の受験勉強に疲れた親の一人として、思わず膝をたたいた。(たたいてないけど(笑))
本書は、第1章「中学受験に向く子、向かない子」で、まず、「ほんとうに中学受験するんですか? 中学受験は過酷ですよ」と、親の覚悟を問うところからはじまる。
つづく第2章では、それでも「中学受験する」と決めた親のために、4年生、5年生、6年生の各学年での勉強のしかたと注意点を教えてくれる。
ここで夏休みの過ごしかたや、志望校選びのポイントなど、具体的なアドバイスをしたあと、いよいよ親の心構えを語る。
第3章「中学受験生の母親の心得」、第4章「中学受験生の父親の心得」は、笑える。そして、身に染みる。
受験が近づくと、母親は我が子の受験が頭から離れなくなる。なのに、夫は仕事の帰りがおそく、相談に乗ってくれない。
ついつい、子どもの前で夫の悪口を言ってしまう。
でも、それは我が子に父親不信を植えつけ、父親の言うことを聞かなくしてしまう。
では、夫に腹を立てないようにするには、どうしたらいいのか。
夫を大人の人間だと思うから、欠けた部分に腹が立つのです。ならば、こう考えてみてはどうでしょう。夫は犬、だと。
なにも、夫をバカにしての提案ではありません。そもそも、男と女は別の生き物です。本来、分かり合えない部分がたくさんあります。ところが、夫婦になると、互いに分かってほしい、分かってくれているはず、という甘えの気持ちが強まる。結果、理想と現実にギャップが生まれ、不満が膨れ上がってしまう。
しかし、相手(夫)を犬だと思えたらどうでしょう。
昨年9月に『夫は犬だと思えばいい。』という本を出した高濱氏が、本書でも夫を犬と思ったほうがいい理由を教えてくれるのだ。
もちろん、父親向けには、犬と思われないように父親としてどう受験に関わっていくかを指南してくれる。
妻との会話の練習方法までシミュレーションしているのは、世のお父さん族が、それだけ家族と断絶しているからだろう。
高濱氏は言う。
お父さんの役割は、我が子にとっての母親像を良いものにする、それに尽きます。そのためにも、お父さんにはぜひとも、お母さんの支え手であってほしいのです。
受験までの長いマラソンに疲れたとき、この本を読み返すことにしよう。
きっと、また走り出す元気が湧いてくるに違いない。