そんなに読んで、どうするの?


副題:縦横無尽のブックガイド
2005年12月刊  著者:豊粼 由美  出版社:アスペクト  \1,680(税込)  557P


そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド


何か面白い本はないかなー、といつも新聞の書評を読んだり書評メルマガを見たりやしています。また、書評本というのは、いろんな本を紹介してくれると同時に、書評の書き方の参考になりますので、なるべく手に取るようにしています。
今回取りあげる『そんなに読んで、どうするの?』は、主に小説中心のブックガイドで、500ページ以上あるのに価格がなんと1,680円。
とてもお得感のある本です。が、……。


目次を開いて衝撃を受けました。
ガーン! 知ってる本が一冊もない!
PART1の日本文学編96作品、PART2の世界文学編143作品、全て読んだことのない作品ばかりです。知っている作家も登場しますが、私の読んだことのあるメジャーな作品(代表作)ではなく、あまり有名でない作品が取り上げられているのです。


だめだ、こりゃ!


たいていの書評本には既読の本が載っていますので、自分が読んだ本の書評をまず読んでみれば、筆者がどんな書評スタイルで書いているか分ります。でも、知らない本ばかりでは、どうしようもありません。とても本書を読み通すことができませんでした。
それでも、私が読んだ範囲だけでも、本書には大きな3つの魅力があります。もったいないので、今回は読了していない本ではありますが、あえて紹介文を書くことにしました。


魅力その1――巻末の「読みたい本がみつかる書名INDEX」という表


239作品それぞれの作品が、「恋愛」「友情」「青春」「笑い」などの全部で21の分類に該当するかどうかをまとめています。
「落涙」しそうな「犯罪」ものが好き、などと自分の好みが分っていれば、ぴったりの小説をいくつも教えてもらえます。


魅力その2――某大作家先生が激怒した伝説の辛口書評を特別袋綴じ掲載


「読者諸君!アホ面こいてベストセラーなんか読んでる場合?」というタイトルで書かれた辛口批評が最高です。袋綴じというのは見かけ倒しが多いものですが、期待を裏切りません。
裕次郎世代に涙を流させたあの作品も、不倫ブームの発端になったあの作品も、年をとってから生き方に関する本を出すようになった親鸞ファンのあの作家も、ベストセラーになったあのタレント本の著者も、みんなみんなボロクソにこき下ろしています。
あまりのテンポの良さに、笑って許してあげる気持ちにななりそうなものですが、槍玉に上がった某先生が文藝春秋社に怒鳴り込んだおかげで、当の雑誌は廃刊。筆者は2年も文春から注文をもらえなくなったとのこと。
それでも著者は、
   「ったく、○○野郎がよー。お偉いさんに言いつけずに、オレに直接
    抗議してこいよ、相手になってやっからよー」
と気焔をあげており、全く懲りていません。


魅力その3――「そんなに読んで、どうするの?」との問いに答える


著者は、本書のタイトルで「何のために読書するのか、びっくりするくらい沢山の本を読むのはどうしてか」という問いを投げかけています。
著者があとがきに示す答えはオーソドックスですが、これだけの読書量を背景にして開陳されると説得力がありますねぇ。


本書に関連して思い出したのですが、知らない本の題名ばかり、というのは、以前「本の雑誌」を読んだ時にも体験したことがあります。


知らない人のために、ちょっとだけ解説すると、「本の雑誌」というのは書評中心の月刊誌で、昭和軽薄体で有名になった椎名誠氏が編集長をしています。
もともと、椎名誠氏がサラリーマン時代に入社してきた目黒考二氏が本と活字にまつわる文章を書いていたのがきっかけで、同人誌のように発行していたのですが、とうとう会社になってしまいました。
大学生の有志が無償で配本を担当してくれて、ワイワイにぎやかだった設立時のエピソードが椎名誠著『本の雑誌血風録』などに書かれています。


私も何回か「本の雑誌」を購入したことがあるのですが、「知っている本が全く登場しないショック」を体験しました。
書評文を読んでも、
  「前作○○に比べると……」
  「△△著の▽▽の趣きと似ている」
などと、またも知らない書名と著者名が出てきてチンプンカンプン。
レベルが違う! ということを見せつけられました。


目黒考二氏はインタビューに答えて
  「(大学時代は)日曜日には10冊ぐらい本を読んでたし、
   映画は1年に365 本見るようにしてた。
   でも、本は今のほうが読んでるな」
なんて言ってます。


今でも「本の雑誌」は鬼門です。
あれは、“読書のプロ”のための雑誌ですから、私らシロートがふらふらと近づいてはいけません(笑)。