夜回り先生


2004年2月刊  著者:水谷 修  出版社:サンクチュアリ出版  価格:\1,470(税込)  218P


夜回り先生


夜回り先生、こと水谷修氏は、夜間高校の教師です。夜9時に授業が終わると、週のうち何日かはその後「夜の街」へと出かけ、そこでピンクチラシや風俗の立て看板を片付けたり、盛り場でたむろする(著者が「子どもたち」と呼んでいる)青少年に声をかけています。
もう10年以上、水谷先生は夜の街を歩きつづけ、昼の世界に受け入れてもらえない子どもたちとの出会いを重ねました。目をうつろにした子どもを見ました。闇の中に沈んでいく子どもを見ました。傷だらけの子どもを見ました。
出会いは何百何千とありました。そのすべてが哀しいものでした。そして、そのすべてが素晴らしいものでした。著者は、ただひとつの後悔もない、と言い切ります。
危険な道に進もうとしている子どもたちを守るために、たとえ暴力団の事務所でも、暴走族の集会でもかまわず突入していきますから、警察は彼のことを「日本で最も死に近い教師」と呼んでいるそうです。事実、暴力団から足抜けする際の条件をやぶった子どもを守るため、その落とし前に、利き腕の小指を失うという経験もしています。


本書は、こんな前代未聞の活動をする著者と子どもたちとの出会いの記録です。また、「夜回り」を始めるようになったきっかけを静かに語りかけている「詩」のような本でもあります。


著者の生い立ちは決して幸福ではありませんでした。また、中学の頃から教師に不信を覚え、荒れた生活を送ります。そんな著者が「教師」という存在を見直したのは大学時代です。
全く授業に出ず、このままでは放校処分という時、大学の学科長が訪ねてきました。夜遊びで不在の彼の部屋で待っていた学科長は、ネクタイとスーツのまま著者のフトンにもぐりこみます。
明け方に帰ってきた彼が自分のフトンに誰か寝ているのに気づくと同時に学科長はむっくりと起き上がり、「おかえりなさい」と言って笑いました。「大学に戻ってきなさい。でもまずは少し寝ましょう」と言って、そのまま、またごろんと横になった学科長の静けさが、著者の心に染みました。
夜間教師になったのも、また強烈な体験がきっかけになっているのですが、続きは本書をお読みください。


「夜回り」を続ける著者は孤独です。誰も彼の後についてきません。何度も何度も振り返りましたが闇が果てしなく続いていました。


本書は、次のような語りかけで終わっています。


   この本を読んでくれた大人たちにお願いがある。
   どんな子どもに対しても、まずは彼らの過去と今を認めた上で、
  しっかり褒めてあげてほしい。よくここまで生きてきたね、と。

   生きてくれさえすれば、それでいいんだよ。