「モナ・リザ」ミステリー


副題:名画の謎を追う
2004年12月刊  著者:北川 健次  出版社:新潮社  価格:\1,575  188P


「モナ・リザ」ミステリー


本書は、美術家である著者が「モナ・リザ」自体が秘めている謎、レオナルド・ダ・ヴィンチの謎を解明しようとする作品です。


レオナルドが秘密結社に所属していたのではないか、という言い伝えがベストセラー推理小説ダ・ヴィンチ・コード』の物語の核になっていますが、レオナルドは謎の多い人物です。また、彼の作品「モナ・リザ」についても、様々な疑問が提起されています。モデルは誰なのか、妊娠していたのか、なぜ黒衣の喪服なのか、絵の注文主は誰か、幻想的な背景は何かの暗喩なのか、口元の微笑の意味は何か、そもそもレオナルドはこの絵に何を描こうとしたのか。
モナ・リザ」の謎を、著者は「全ては表象のままに開かれているというのに、本質的な何者かが完全に内奥に閉ざされているという、謎の多面体を持ったあやかしの絵画」と表現しています。


もう500年も解かれていないこの謎に自分なりの解を見つけるため、著者は方々へ旅をしました。非公開の素描を直接手に取る機会を得てロンドンの大英博物館に赴いたのを皮切りに、裏文字の解明のために発達心理学の専門家に会いに京都へ。また「ダ・ヴィンチの綺想」を確かめるために以前行ったことのあるミラノを再訪したりもします。
著者はこの「あやかしの絵画」を解明するために数多くの文献を渉猟しますが、美術家である著者が最終的に頼りにするのは自身の感覚です。
たとえば、著者は「レオナルドは4歳で生き別れた母への思慕が強く、一体化願望を持っていたのではないか」という着想を証明するため、どこかに同じような例がないかを探しました。そして、日本の法然に同じような事実があったことを思い出すと、京都光明寺を訪ねて直接見せてもらうという行動を起こします。母親が斬殺されるという不幸に見舞われた法然は、自分を肖像化した乾漆像の内部に、母親からの手紙をびっしり張り込ませたというのです。
実際に見せてもらった時の最初に伝わってくる印象が全て、と言い切る著者は、法然の像が慟哭のすさびといったものを生々しく放ってくるのを感じ取り、「モナ・リザ」も「母子合体」の強度の想いを今に伝えていることを確信します。


レオナルドとその作品を推測しながら著者がたどった最後の旅は、パリ、ミラノ、フィレンェと進みました。レオナルドの足跡を逆にたどるように旅してきたことを想い、「明日は、やはりヴィンチ村へ行こう」と、フィレンツェのホテルで著者は決意します。
レオナルドが4歳で母親から引き裂かれるようにして連れてこられたヴィンチ村の風景に向き合い、著者は謎解きの旅を締めくくりました。

文献から推測する謎解きだけでなく、「感じ取る」ことでレオナルドの真実に迫ろうとした文章は、読者の心に直接届いてきます。しかも、著者が解いた謎は、けっして明るいものではありません。気力・体力が充実している時に読むことをお薦めします。