個人情報の現場

副題:あなたの秘密はここまでバレている

2004年6月刊  著者:岡崎 昂裕 
出版社:角川書店角川oneテーマ21)   価格:\740(税込)

個人情報の現場―あなたの秘密はここまでバレている (角川oneテーマ21)

タイトルを見て「今話題を呼んでいる個人情報保護法関係の本かな」、と手にしたが、違っていた。著者の肩書きは「元・調査会社社員」=元探偵である。デジタル化された個人情報の話ではなく、昔ながらのアナログ的な手法で個人の情報を探り当てたエピソードが本書で語られる。
若くして抜擢された営業マンが自分の評判を調査してもらいたい、とか、突然消えた恋人を探して、と依頼を受けて調査がはじまる。
結婚の約束をしたのに進展しない相手を調査してもらったら結婚詐欺師だった。リストラを苦にした失踪者を探し、自殺する直前にやっと本人を見つけた、……etc. 本書で披露される事件は、人間の暗い半面を覗き見る話題ばかりである。


中でも著者自身の経験談は、この上なく切ない。
著者の娘が中学生の頃、イジメに遭って不登校になり、校長に呼び出されて校長室でセクハラを受けたことがあった。校長は著者に「お父さんが探偵のような危険な仕事をしているのが心配で心が休まらない、と娘さんは言っている。イジメなどは学校では一切ない」と告げた。妻もその言葉を信じ責任を夫に押し付けることで自らの心を保っていたが、真実を知った時、その妻が一番傷ついた。
痛い日々だった、と著者は言うが、こんなにやりきれない話まで書かなくてもいいじゃないか。あまりに自虐的で、胸がしめつけられる。


著者が調査業に携わった時「依頼者に正義がなければ、その依頼は受けてはならない」と上司から叩き込まれたそうだ。しかし、世の中にはお金だけ取って何も調査しないばかりか、「あなたが不倫調査を依頼したことをご主人に知らせる」と脅迫するような業者も多い、とのこと。合法と違法の境界に生きた経験を持つ著者は、「困っている人、苦しんでいる人は、調査業の門扉を叩くだろう。できるなら、その相手が間違いのない業者であることを祈るしか、今の私にはできない」と本書を結んでいる。