副題:公益通報者保護法は何を守るのか
2004年4月刊 著者:奥山 俊宏 出版社:現代人文社 価格:\1,995(税込)
「内部告発」という言葉を聞くと、「裏切り者」という何となくダーティーなイメージを感じる。
しかし、本書で紹介される映画『インサイダー』になった米タパコ事件・エンロン事件・ワールドコム事件などのアメリカの例や、東京電力原子力発電ひび割れ隠し事件などの日本の事例を読むと、内部告発のおかげで社会正義が守られたこと、告発者がいなかったとしたらもっと腐敗が続いていただろう、ということが理解できる。
とはいえ、不正を目にしたとしても自分の立場を考えると告発に踏み切るには勇気が必要だ。ウォーターゲート事件の取材過程を描いた「大統領の陰謀」によると、“ディープスロート”という告発者は、新聞記者にも自らの正体を明かさなかった。それは、権力の頂点に君臨する相手がどんな報復をするか分からないからだ。
これからの社会は、内部告発者を守ることによって告発しやすい環境を作り、組織の健全性を保っていくべきだ。という考え方が本書の底流に流れている。
善意の内部告発者だけを守るのか、利害関係があって告発をする「密告者」をも守るべきなのか。国によって意見は分かれている。
アメリカでは、個人的利益という動機であっても告発をしてもらうべき、という考え方まで進んでいるらしい。具体的に言うと、政府になりかわって損害賠償などの支払いを求める「キイタム訴訟」というものがあり、勝訴した原告には、勝ち取った賠償金のうち15%〜30%の報奨金が支払われる。とのこと。日本の住民訴訟や株主代表訴訟の原告は勝訴しても一銭も得ることのない、いわば公のためにだけ尽くす人であるのと対照的である。
最近コンプライアンス(法令遵守)という言葉を目にすることが多くなった。民間企業・行政機関で、職場で感じた不正を受け付ける(ヘルプライン等と呼ばれる)ホットラインを設ける例が増えている。
日本でも「公益通報者保護法」が2004年6月18日に公布され、その中に2年以内に施行されることが明記された。現在は2005年4月に施行される個人情報保護法への対応が最大の関心事のようだが、次は公益通報者保護法への対応を迫られる。本気でコンプライアンス体制を確立したい企業や法人にとって、本書は必読の書になるだろう。