副題:男たちは何におびえているか
著者:奥田 祥子 出版社:講談社(+α新書) 2015年1月刊 \950(税込) 222P
「男性漂流」といっても、遊び人の女の人があっちの男、こっちの男とフラフラとさまよっている話……ではない。
副題に「男たちは何におびえているか」とあるように、男たちが生き方に迷い、あっちこっちへ漂流している実例を取材したルポルタージュである。
著者の奥田氏は、1966年生まれのジャーナリスト。
ニューヨーク大学でメディア論、社会心理学専攻の大学院修士課程を修了後、1994年に新聞社に入社し、地方支局に配属された。
配属先で唯一の女性記者となった奥田氏は、先輩たちが毅然とした態度で政治家や権力と対峙する姿に感化され、冷静沈着で弱音を吐かない男性記者を目標にするようになった。
その後、週刊誌部門に配属となり、取材をしているうちに男性の認識が変わった。
社会で優位に立っているはずの男たちが、仕事や家庭、心身の不調などの問題をかかえ、苦しんでいることを知ったのだ。
はじめは淡々と話をしていた取材相手が、2時間、3時間と長時間のインタビューをつづけているうちに、不安や焦燥感、悲しみなどのネガティブな感情をあらわすようになる。顔を紅潮させ、時には涙をうかべながら苦しみを訴える。
記者としての好奇心を激しく揺さぶられた奥田氏は、一人のジャーナリストとして独自の取材活動を開始した。
男たちの悩みを聞き続けた結果を書き下ろした『男はつらいらしい』を2007年に出版した。
「結婚できない男たち」「更年期の男たち」「相談する男たち」「父親に『なりたい』男たち」の4つの章に分け、それぞれ、晩婚・非婚化、更年期障害、職場の問題や夫婦・親子関係についての男たちの深いふか〜い悩みをレポートする内容だった。
(『男はつらいらしい』の僕の書評はこちら)
この「男性問題」を深掘りしようと、その後も取材を続けていたところ、2008年末に週刊誌が休刊し、所属する週刊誌部門がなくなってしまう。
取材と発表の場を失ったショックで、個人ジャーナリストとしての活動も丸1年間休止。さらに数年後、たった一人の肉親である母親が要介護となり、はからずも、自分自身が仕事、結婚、介護の悩みをかかえる立場になった。
インタビュー相手の悩みを自分も経験したことで言葉の重みが増したことを実感し、「男性問題」の第2弾を刊行することにした。
それが本書『男性漂流 男たちは何におびえているか』である。
今回も中年男性の悩みの数々を具体的に紹介しているのだが、前著と読みくらべてみて、内容が深化していると気づいたところが2つあった。
ひとつは、長期にわたって取材しているうちに、取材相手の考え方や悩みの内容が変化していくことだ。
「結婚」をテーマにして取材していた相手が、「介護」で悩むようになっていたり、やはり「結婚」で取材していた別の人が「婚活」プレッシャーにさいなまれて、ある「事件」を起してしまったり。
前著『男はつらいらしい』に登場する男の悩みは理解可能な範囲だったが、今回の『男性漂流』の男たちの悩みは、読んでいて引いてしまうくらい深刻なレベルに達している。
もうひとつは、奥田氏の取材態度。
前著『男はつらいらしい』では、あくまで取材者としてインタビューしていた。
読んでいて、「そこまでにした方がいいよ。もう一押し挑発すると、きっとキレて爆発するよ!」と声をかけたくなるほどハラハラする場面もあったが、取材相手と適度な距離を保っていた。
ところが、今回の『男性漂流』では、取材相手の懊悩に「そこまでしなくてもいいのに」と言いたくなるほど寄りそっていく。年賀状を送り、メールで近況をたずね、ここぞという時に、名古屋、大阪まででも足をはこび、相手が重い口をひらくのを待つ。
取材相手が顔を向けてくれないときなど、思わず、
「実は私自身が、結婚したいのに女性としての魅力や自信がなくて、結婚できないんです。そんな自分も変えたくても変えられなくて……」
と告白してしまったこともあるという。
取材相手と奥田氏自身の悩みがシンクロし、苦しみが一段と深まるように感じられる。
ここで、いくつか男の悩みの実例をあげたいところだが、同じ中年男性として、これ以上書きつづけるのがつらくなってきたので、割愛させていただき、目次だけ紹介させていただく。
第1章 結婚がこわい(婚活圧力と生涯未婚ラベリング;二〇〇四年の「白雪姫求め男」 ほか)
第2章 育児がこわい(「イクメン」登場;パパサークルの現場 ほか)
第3章 介護がこわい(「ケアメン」―男性介護の時代;悠々自適な「中年パラサイト」 ほか)
第4章 老いがこわい(男性もアンチエイジングの時代;自信が湧く男性更年期治療 ほか)
第5章 仕事がこわい(会社が守ってくれる時代の終焉;考課する中間管理職の悩み ほか)
前著『男はつらいらしい』には、男性読者からは共感や苦笑交じりの感想が寄せられ、女性から「男性の気持ちが少しは理解できなたよな気がした」との反響もあったそうだ。
決して「楽しい」とか「メデタイ」という内容の本ではないが、「強い男」のイメージとプレッシャーに疲れを感じている男性や、家族のあり方、亭主との折り合いに問題をかかえている女性には、読んでみることをお勧めする。