副題:「負け組」の絶望感が日本を引き裂く
2004年11月刊 著者:山田 昌弘 出版社:筑摩書房 \1,995(税込) 254P
9月12日のブログで横田増生著『アマゾン・ドット・コムの光と影』を紹介しました。その中で、今日紹介する『希望格差社会』のキーコンセプトである
「経済的な“勝ち組み”と“負け組み”を隔てる『希望格差』こそが
日本社会を引き裂きつつある」
を引用したところ、読者の方から「とても暗い気持ちになった」というメールをいただきました。
その暗い気持ちになる本を今回は取り上げます。ココロにずしんと応えますが、癒されたり元気になる本ではありません。申しわけありませんが、「心が重くなる本をわざわさ読みたくない」という方は、読み飛ばしていただきますようお願いします。
本書は、ニューエコノミーによってもたらされた経済状況の変化が、どのような社会を作りつつあるかを分析・考察するレポートです。
かつて「パラサイト・シングル」という流行語を生んだ著者の山田昌弘氏は、現代社会の特徴を、将来が見通せなくなり先行きを不安に感じる人が多くなる「リスク化」にある、と指摘します。
一昔前であれば卒業と同時に就職するのが当たり前だったのが、卒業しても就職先が見つからない可能性が高くなる、なんとか就職したとしても、収入が自動的に増え続けるという年功序列賃金が期待できなくなり、リストラで職を失う可能性も高くなる。それがリスク社会です。
それでも、多くの青少年は今までどおり学校システムに入り込めるように頑張らなければなりません。大学卒さえ就職が厳しいのに、大学卒でない人が採用される確率はもっと低いのです。
しかも、統計データを元に親の収入と子どもの学歴の相関関係を分析すると、お金持ちの親を持つ子どもほど高学歴の傾向があり、年々顕著になっているとのこと。将来性が二極化し格差が拡大することが青少年に肌で感じられるようになってくると、収入の低い親を持つ若者の間に「勉強しても仕方がない」という気分が蔓延し、その結果が学力低下を年々進行させる。
この悪循環を著者は「希望格差社会」と命名しました。
著者は「希望とは、心が未来に向かい、現在の行動とつながっている時に感じる感情」と定義しています。希望があるから苦労や悩みを乗り越える力がわいてくるのであって、希望を持てない人が増えたからこそ、「つらさや苦しさ」に耐える力が減退して自殺の増加、フリーターの増加などの社会現象が起こってきている、と分析しました。
いやはや、なんとも暗澹たる気分にさせられるお話です。
では、こういう社会を少しでも良い方向に向けるために、いったい何をすればよいのか。著者は、「リスク化や二極化に耐えうる個人を、公共的支援によって作り出せるかどうかが、今後の日本社会の活性化の鍵となると信じている」と述べています。
能力をつけたくても資力のないものには様々な形での能力開発の機会を与え、努力したらそれだけ報われることが実感できるしくみを作れば良い、とのこと。
8章にわたって分析の後、最後の章で何らかの解決の糸口を得られるのではないかと期待した読者には、もの足りない提言です。具体性に乏しいことは否めませんが、本書は社会現象の分析を本業とする社会学者が書いた本ですから、過剰な期待は持つだけムダというものでしょう。
社会は希望を与えてくれない、という本書の示す厳しい現実を認めた上で、どうやって幸福な人生を目指していけばいいのか。
重たい宿題が心に残る一書でした。