アフォーダンスって?


皆さんは、「アフォーダンス」という言葉を聞いたことがありますか?
この不思議な言葉の説明を聞いたのは、10月6日に出席したある講演会の席上です。


この言葉は、アフォード(afford)という英語(与える、提供するという意味)を元に、米心理学者のジェームス・ギブソンが1950年代後半に作った造語です。
従来の心理学に無かった概念を創出した画期的な言葉だそうで、あんまり画期的なので、この心理学を研究する学者が世界に数十人しかいません。
この言葉を教えてくれたのは、日本に数人しかいない研究者の一人である佐々木正人氏という東大の先生です。


「私の研究分野は“セイタイ心理学”です。セイタイといっても、こっちの(と両手の親指を立てて指圧のポーズをとって)セイタイではなく、“生態”のほうです」と自己紹介する佐々木氏は、「象牙の塔で世間を睥睨している学者」というイメージとはほど遠く、「いやー、あまり知られていない学問ですけど、おもしろいんですよー」というメッセージを体から発散させている、きさくなおじさんでした。


私の聞いた説明では、アフォーダンスとは、物体の持つ属性(形、色、材質、etc.)が(人間を含む)動物に与えるメッセージで、どのように取り扱ったらよいかを示しているものです。
よく知られているのがドアの形状の例で、取っ手の付いているドアは引いて開けることをアフォードしていて、ドアノブも取っ手も付いていないドアは押して開けることをアフォードしている、とのこと。


佐々木氏が研究内容の一部として見せてくれたのは、あお向けにされたカブトムシが、なんとかうつ伏せに戻ろうとしてジタバタしている様子を延々と撮影した動画でした。足をうまく使って少しずつ移動し、何か捉まるものに届くまでもがいています。捉まるものが見つかったら、それをたぐり寄せたり振り回したりして、何とか目的を達します。夏の間、娘さんといっしょに延々とカブトムシを裏返しにして観察して研究している、という生活を想像すると、なんだか笑ってしまいます。佐々木氏は、この観察によって、カブトムシにとっての世界がどのような境界・表面によって成りたっているかを研究します。
もっと大掛かりなのが、人間の子どもを長期間ビデオ撮影してもらい、寝返ったり転んだりする様子を分類しデータベース化するという研究。
まだ寝返りをしたことのない赤ちゃんが、あお向けでふとんの上をズリズリ移動し、ふとんの端のわずかの段差を利用して生まれて初めての寝返りをする場面を見ていると、「あっ、カブトムシと一緒だ」と笑ってしまいました。
この“貴重な”映像データベースが、来年発売されるので、アマゾンで見つけたら買って下さいね。というコマーシャルもありましたが、ちっとも商売っ気の無さそうな佐々木センセでした。
研究者って、自分の研究を心底楽しんでいるものなんですね。