クライム・マシン


著者:ジャック・リッチー  【訳】好野 理恵
出版社:晶文社  2005年9月刊  \2,520(税込)  332P


クライム・マシン (晶文社ミステリ)


宝島社等が主催して発表している「このミステリーがすごい!」というランキングがあります。1年間のミステリーを面白い順に並べるという、すばらしい企画ではありますが、今まで私には縁のないランキングでした。
だって、ミステリーを読む人って、ミステリーばっかり読んでいて、「ココロにしみる」より、「トリックのおもしろさ」ばかりを追求しているような気がしません?
それに、あの人たちの読書量って言ったら……。
週に3〜4冊読む私が小食に見えるくらいの健啖な読書胃袋を持っているのです。


でも、本当は―― あぁ。私も大食いになりたい……。


このミステリーがすごい!」2006年海外編第1位という本書を手に取ったのは、ちょっと読書界の超人に憧れていたことがきっかけでした。


なんでも、日本ではあまり知られていない作家で、本国アメリカでも、むしろ死後に評価が上がっている短編作家、とのこと。


読んでみました。
驚きました。衝撃でした!


どの小説も、犯罪のにおいのする出来事が淡々と進行していき、おきまりの最終場面に行き着くかと思ったところで、信じられないようなドンデン返しが待っています。



とえば、アメリカでMWA賞というのを受賞した『エミリーがいない』では、“妻殺し”と思われる物語が進行します。
エミリーが不在になったことを不審に思う従姉が、少しずつエミリーの夫を追い詰めました。とうとう夫は夜中にスコップを持って、屋敷内のある場所を掘り始めたとき、懐中電灯の多数の灯りが周りを取り囲み……。


ありふれた物語でしたら、ここで死体が発見され、夫から殺人に至った事情が語られることでしょう。
しかし、ジャック・リッチーは違います。
実際に何が起こったかは本書を読んでいただくとして、あまりの意外な結末に「やられた!」と心の中で叫んでしまうことは間違いないでしょう。


他の短編も、最後の最後まで目が離せません。終わりのたった2行で、物語が正反対にひっくり返ってしまったものもありましたよ。
あの映画『スティング』のドンデン返しばかりを集めた本、と言っても、けっして嘘にはなりません。


どんな頭の構造をしていたら、こんな発想ができるのかなぁ。……と感心したのは、星新一ショートショートを読んで以来です。


「このミス」の過去のリストを見ると、映画でも大ヒット中のあの『ダ・ヴィンチ・コード』が、2005年度の4位にランキングされています。
たとえ大ヒットしても「4位」と位置づけるところに、「このミス」の真骨頂を見ました。


ふだんミステリーを読まない方も、この機会にお試しください。