かぼ アクリルの羽の天使が教えてくれたこと


著者:石井 裕之  出版社:祥伝社  2008年11月刊  \1,260(税込)  163P


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前回に続き、「利己」と「利他」について問いかける本を取りあげます。今回は、かなり刺激の強い『かぼ』という小説です。


売れない小説書きだった主人公の松田は、出版社からの紹介で、有馬という成長企業経営者のゴーストライターとなります。「自分のためだけに生きろ」という有馬の主張は、特に若い世代から熱烈な支持を集め、松田の代筆した本はベストセラーになります。


ふつうゴーストライターが表に出ることはありませんが、有馬があっさり代筆者を明かしてしまったことから、松田は「自分のためだけに生きろ」という理念の普及者としてもてはやされるようになります。
有馬の会社の取締役にもむかえられ、名実ともに“有馬イズム”の提唱者となった松田は、多額の報酬と多忙な日々に追われるようになりました。


ある日、売れない小説書きだった頃の編集者から電話があり、松田のファンという子どもを見舞ってやるよう頼まれます。
気が向いて会いに行った病院には、もうすぐ死んでしまう病気を抱える「かぼ」という少年が、背中に羽のおもちゃを着けて待っていました。


「かぼ」は言いました。
「実は、僕は天使なんだ」


聞けば、松田がテレビで「神様なんてものがいるなら現れてみせてくれ」と言ったので、「神様のことばを伝えてあげよう」と呼び出したというのです。
おもしろ半分に病院に通うようになった松田は、「かぼ」のことばが自分の心の深いところに刺さっていくのを感じるようになります。


「かぼ」が神様に召されて逝ってしまう日が近くなったとき、「かぼ」との対話を心に深くおさめてきた松田は、自分でも予想もしない行動に出ました。
恩人であり、会社の責任者である有馬に向かって“有馬イズム”を否定するようなことばを投げつけたのです。


  有馬さん、あなたの本心は“有馬イズム”じゃない。
  僕たちは決してひとりではない。みんなつながっているのだと感じる心。
  他人の幸せを、自分の幸せだと感じられる心こそが本心です。(要旨)


有馬が“有馬イズム”を標榜するようになったのには、理由がありました。


その秘められた理由とは。
松田の身に起こった衝撃の結末とは……。


『かぼ』は、『コールドリーディング』シリーズで、人の心の読み方、探り方を説いている石井裕之さんの新刊です。


『コールドリーディング』は、読み方によっては詐欺師のテクニックを披露するような本ですので、私も好奇心にあふれて読んだものの、著者のことばをすなおに受け取れませんでした。
石井さんが道徳的に正しいことを言うのは、それによって石井さんが何か利益を得ることを目的にしているのではないか。そう疑ってしまうのです。


『かぼ』に登場するのは、号泣を誘うような自己犠牲の物語です。「本当にどうしてもこれを書きたいんだ!」という石井さんのことばを素直に信じられるかどうか。


「利他」についてのあなたの考えが浮き彫りにされるかもしれません。