大人のための文章教室

2004年10月刊  著者:清水 義範  出版社:講談社現代新書  価格:\756(税込)  207P


大人のための文章教室 (講談社現代新書)


自分の文章を少しでも良くしたい、という願望を持つ人は、この手の本(文章読本)を目にすると読まずにはいられない。私自身は本多勝一著「日本語の作文技術」に深く心酔しているので、他は読まなくてもいいはずなのだが、類書を見ると思わず手に取ってしまう。


一方、作家にとっては、文章読本を出すことが「功成り名とげて自分が立派な物書きになったことの証し」という側面があるようだ。「まえがき」や「あとがき」には、そのあたりの自負や意気込みが書いてあるものなのだが、本書の「はじめに」には「私は自分のことを名文家だと思っているわけでは決してなく、なんて言い訳を書けば、どんどんいやらしくなるだけだ」と書いてあるだけ。清水義範といえば日本でパスティーシュのジャンルを確立し、数多くの著作を持つ作家なのだから、もっとエラソウにしてもよさそうなものだが、わざと肩すかししているようだ。
しかし、「あとがき」には「『文章読本』というものは、もともとは文章の指南書のはずなのだが、多くはそれにはあまり役に立たない」とあり、「私は今までと違って役に立つ『文章読本』を書く!」という決意がありありとうかがえる。


その意気込み通り、本書にはユニークな視点が多い。冒頭の「ワープロで打った文章と手書きの文章はどう違うか」などという問いかけ自体が珍しいし、その答えにも感心してしまった。
また、文体について「です・ます体には、上下関係へのこだわりが内在している」と見抜き、「なるべくならば、だ・である体の文章を書くようにするのがいいだろう」と具体的アドバイスを惜しまない。
「実用的」と私が感じたのは、文章の長短と句読点について論じたところ。本多勝一センセは文章構造やテン・マルの使い方について精密な分析を行い、体系立った複数の原則を示していたが、清水義範式は「直列つなぎの長文は、もとになる文を3つつないだら一度切る」「並列つなぎの長い文を書く時は(中略)構成要素の文は3つか4つを限度とし、それ以上は長くしないのがコツである」、とシンプルな二つの指針にまとめてある。
最終講義として自身の文章修行経験も明かしている。文章力を向上させたい人には一読に値する本である。


ところで、一年くらい前に月刊誌上で、阿刀田高が「私も文章読本のようなものを書いてみたいのだが……」とういうようなエッセイを書いているのを見つけたことがある。今度は、阿刀田さんの文章読本を読んでみたいな。