世界の奇妙な国境線


著者:世界地図探求会  出版社:角川SSC新書  2008年5月刊  \798(税込)  173P


世界の奇妙な国境線 (角川SSC新書)    購入する際は、こちらから


『話を聞かない男、地図が読めない女』という本があるとおり、女性は男性より地理感が弱い、という“常識”のふりをした“偏見”がある。
原始時代の昔から、狩りを担当した男にとって地理感があるかどうかは命にかかわる問題だった、というのが「女は地図を読めない」派の言い分だが、本当にそうなのか?


少なくとも、我が家は違う。
僕は、3〜4回おなじ道を通れば、地図なしで行けるようになるという、まあまあ、普通の地理感の持ち主なのだが、カミさんには負ける。カミさんは、1回で覚えてしまうらしい。
最近は小学校1年生の娘にまで負けそう。我が家で「地図が読めない女」などと口が裂けても言ってはいけないのだ。


そういえば、高校の社会も地理より歴史が好きだった。
そんな僕が、この本はおもしろい! と思った。


この地理ウンチク本は、「世界地図探求会」という地図フリーク集団が書いた。


この世界地図探求会は世界地図を穴のあくほど眺め、おかしな飛び地や、異様にまっすぐな国境線を見つけては、なぜそんなことになったのか、歴史的経緯をあぶり出す活動を実践している。
本書に収録された変わった国境線は、ほとんどが初めて見るものばかり。知ってて役立つことは少ないが、「ふ〜ん」「へ〜」と感心してしまう話題ばかりだった。


知らない国の話が多いので、昔むかしの王様が変な国境を決めてしまった、なんていう話題は笑って読める。
しかし、今も戦闘状態にある国、政治的緊張の強い地域の話は笑い話ではすまされなかった。


3つ例を挙げる。


ひとつはイスラエルガザ地区
パレスチナ自治政府の大部分を占めるヨルダン川西岸地区ガザ地区は飛び地である。
ガザ地区は、東西10キロ、南北40キロの細長い土地で、福岡市くらいの大きさしかない。周囲を壁と有刺鉄線で囲まれていて、イスラエルから許可をとらなければ、所定の区域外に出ることはできない。自分の畑で農作業を行うこともままならないそうだ。
  パレスチナ人にとってのガザ地区は、「巨大な収容所」
という記述は、決して大げさな表現ではない。


ふたつ目は、イギリスとアイルランドの国境線。
イギリスの本土であるグレート・ブリテン島アイルランド島は民族構成も異なり、古くから互いに侵略を繰り返してきた。今に続く対立の起源は、なんと12世紀までさかのぼる。ヘンリー2世がアイルランド全域をイギリスに併合し、アングロサクソン系住民がアイルランド北部へ移住するのを奨励した。
その後、長期にわたって民族的にも宗教的にも抑圧されていたゲール人アイルランド共和国の独立を勝ち得たのが1949年というから、ほんの60年前のことだ。
このとき、アイルランド島の北部がイギリス領土に残ったことから、アイルランド共和軍(IRA)が結成され、ゲリラ闘争を行った。1970年代から1990年代にかけて、ロンドンで爆弾テロ事件が頻発し、互いの憎しみが増した。
ブレア前首相が調停に成功し、1998年に休戦状態になったのだが、いつ火種が再燃するかわからない状況らしい。


そして、3つ目は旧ユーゴスラビア
イタリアの東、ギリシャの北に位置していた旧ユーゴスラビアは、「1、2、3、4、5、6、7の国」と呼ばれていたそうだ。

「南スラブ人の国」という意味の旧ユーゴスラビアが抱えていた、このような複雑な民族・政治・宗教の問題は、1990年代に爆発した。詳しいことは知らなくても、ミロシェビッチ大統領、民族浄化、虐殺等の言葉がテレビニュースから聞こえていたのを覚えている人も多いだろう。
独立宣言と内線を繰り返した連邦国家は、2006年、とうとう6つの国に分かれてしまったそうだ。