副題:負け犬OL・汚部屋片付け爆笑ブログ
著者:夏目♀ 出版社:扶桑社 2007年9月刊 \1,260(税込) 503P
ニュース番組の特集で、「片付けられない女」のレポートを見たことがあります。
最初は、“ものすごく散らかった部屋”を見せてくれる程度でしたが、回を重ねるごとに散らかり方がエスカレートし、やがて天井近くまでゴミの山が築かれた堂々たる汚物部屋が紹介されるようになりました。
興味本位の特集ですので、「片付けられない」人をさらし者にして、終わりです。
片付けを請け負った掃除業者が登場することもありましたが、作業員が悪戦苦闘しているところを強調するだけで、「片付けられない」人が「片付けられる」人になったかどうか追跡することはありませんでした。
本書は違います。
10年間片付けられなかった女が、片付けられるようになるのです。それも、興味本位のカメラで追うのではなく、当事者の「あたし」がどうやって自分の部屋のなかを片付けていったのか、発掘する過去の自分とどう向き合ったのかを記録したものです。
まず、片付ける前の夏目さんの部屋をアマゾンの表紙(こちら)でご覧ください。
あまりよく分からないかもしれませんが、床が見えないことだけでもお確かめください。
天井までゴミが積まれた部屋に比べると迫力に欠けますが、いらないもので溢れかえった部屋は、なかなかの汚部屋です。
「あたし」の救いは、ここ10年くらい「部屋を片付けよう」と思ったことが一度もないことです。
いざその気になったら、ちょちょーいと片付けられるに決まってる。
じゃ、そろそろ、自分が片付けられる女だということを証明してやりましょうか。
まあ、仕事ほどには気合いを入れず、ほどよくゆるくがんばろう。
こうして、夏目さんの片付けチャレンジ生活がはじまりました。
最初に片付けたのは、溜めに溜めた古新聞です。
エレベータのないマンションの4階から1階まで階段でなんと8往復。ダイエットもできそうな重労働でした。
「でもやっぱり、要らないものを捨てるのって気持ちいい!」
これを続けていけばいいんだ、と自分を鼓舞しながら、片付け生活は幸先のよいスタートを切ったのでした。
本書の大部分は、ここから先の笑える片付けエピソードで綴られています。
なにせ500ページもある文字通り圧巻の記録なので、要約は不可能です。ひとつだけ、私が一番笑ったトホホな話を紹介しましょう。
それは、だいぶゴミも片付いて、そろそろ本を処分しようかと思った本書の真ん中頃に出てくるお話です。
けっこう状態の良い本も多いので、捨てるよりも売ってみよう、と夏目さんは考えました。とはいえ、モノグサで大ざっぱで腰の重い「あたし」がヤフオクやアマゾンで本を1冊ずつ売るのは不可能です。
目を付けたのはイーブックオフの『らくらく買い取り』でした。30冊以上を段ボールにまとめ、ネットで買い取り申し込みをすれば、家まで宅急便のお兄ちゃんが引き取りに来てくれるのです。
この本は「よぉーし」と息巻いて買ったけど読まなかったなあ。
あー、この本は嫁に行ったお姉ちゃんの本かもしれないけど。まあいいや。
一冊ずつ吟味しながら段ボールに詰め込み、パソコンに向かって、集荷希望日を入力しようとして、はたと困りました。
平日は自分は会社に行っている。
といって次の休日まで置いておきたくない。
いっしょに暮らしている父親に、「お願いがあります」と、こういう時だけの「ですます調」で話しかけました。
父親は「きけるお願いときけないお願い、どちらのお願いでしょうか?」と、こちらも警戒の「ですます調」で返します。
宅急便の人が荷物を引き取りにきたら、玄関のドアをあけて荷物を渡して欲しい。
日中ずっと家にいる父親に、それほど負担になるお願いではないハズだ。
ふつうの人ならば。
しかし、父親はゴネ始めました。
どうも、ピンポンが鳴るのを待っていることがイヤ、玄関に出ることがイヤなのです。そういえば、「知らない人が来るとなると、緊張して昼寝できねーから」と以前言っていました。
しかたなく、引き取りではなく、コンビニから発送することにして、重い段ボール箱をマンションの4階から駐車場まで運びました。
運びながら、夏目さんの頭には、
昼寝 > 娘
という不等式が浮かんでいました。
お彼岸にお墓参りに行ったとき、おかあさんに訊いてこよう。とーちゃんが昼寝している時間にいたずら電話かけてもいいかどうか、訊いてこよう。
そう決意する夏目さんでした。
あー、おもしろかった。
――ところが、本文を読み終えて「おわりに」に目を通した私は、最後の最後に衝撃を受けました。
そこには、10ヶ月に渡った片付けを成功させた夏目さんの心情が書いてありました。
父親と共同で使っているリビングは片付けられるのに、なぜ自分の部屋だけ片付けられなかったのか。
そして、10年も片付けられない生活が続いたあと、どうして片付けようと思うことができたのか。
そこには、500ページ目ではじめて明かす、夏目さんの心の傷がありました。
99パーセントお笑い本なのに、最後の1パーセントで本書は感動本に変わります。