著者：大谷 由里子 出版社：朝日文庫 1999年6月刊 \609(税込) 246P
まだ「やすしきよし」が現役で漫才をやっている頃、まっちゃんこと松岡さん（著者の旧姓）は吉本興業に入社しました。まだ、女性マネージャーが珍しい時代です。先輩や仕事先の人からチヤホヤされながら新入社員生活をエンジョイしていた著者ですが、あのやすし師匠の担当になり、さんざん苦労させられながら成長していきます。
退職後に書いたという本書には、著者の成長の姿が驚くほど赤裸々につづられていました。どれくらい赤裸々かというと、この新入社員がイヤな女に描かれているのです。
入社したばかりの頃は、チヤホヤされることを当たり前のように感じる甘えた新人でした。少し仕事を覚えると、電話を切ったあと「この人、仕事する資格ないわ」と文句だけは一人前に。毎晩接待されて飲みに行くか、麻雀するかで、仕事先では自分の我を通しっぱなし。後輩が入社してくると、ロクに面倒も見ないで「今年の新入社員はまったく！」などと、他の会社の人にまでグチりまくります。
やなヤツですねー。
こんなヤツが後輩にいたら、こっちも感情的になって怒鳴りつけたりするかもしれません。
著者が偉いのは、その都度、少したってから反省して人間関係を改善していくところです。「やすしきよし」を育てた伝説の木村マネージャーからも信頼されるようになり、担当するタレントからも頼られるようになっていきました。
生き生きと成長していく著者がまぶしいくらいです。（あくまで本人の自己申告ですけど……）
とうとう、仕事をしながら酔っぱらっている横山やすしを涙ながらに殴ってしまう、という熱血マネージャーになりました。
まだ結婚退職が一般的だった時代のこと。著者の恋愛成就は、退職を意味しました。たった３年間ですがマネージャーとして全力疾走した著者は、ひと時の専業主婦生活を楽しみます。
横山やすしの訃報が飛び込んできたのは、そんな時です。「やっさん」のマネージャー生活を振り返りながら著者の胸に去来するのは、「最後にもう一度会っておけばよかった」という後悔と、「落ちぶれた横山さんを見なくてよかった」という、相反する気持ちです。
本書の後日談になりますが、子育てしながら知人の会社で仕事を再開した著者は、雇い主をどう成長させていくかを考えてしまう、という根っからのマネージャーぶりを発揮してしまいます。2003年に(有)志縁塾を設立し、現在は、プロデューサーとして地域活性、人材活性、企業活性の活動、講演・研修を日本全国で行なっているそうです。
ホームページ（http://www.yuriko-otani.com/）を見ると、鬼ヨメキャラで売っているプロレスラーの北斗さんにちょっと似ていて、頼りになりそうなアネゴですよ。
ご一読あれ。
