こんたん ザ・エンターテインメント小説


著者:杉沢 和哉  出版社:ナナ・コーポレート・コミュニケーション  2007年11月刊  \1,050(税込)  304P


こんたん―ザ・エンターテインメント小説 (Nanaブックス (0061))    購入する際は、こちらから


こんな型破りな本、見たことありません。

型破り、その1 ―― 本の長さが変わってる。


横103ミリ、縦210ミリと、えらく縦長です。
ふつうの新書のサイズが横103ミリ、縦182ミリですので、新書を上に3センチ伸ばしたような変則版型です。
書店の担当者も棚に入らず困ってしまい、しかたなく、平づみしてしまうでしょう。

型破り、その2 ―― 本の装丁が変わってる。


ピンクの表紙いっぱいにサムライや町娘たちが所狭しと描かれています。中を開けると、各ページの下2センチのスペースに、やはりサムライや町娘たちがパラパラマンガ風に描かれている。
どれどれ、とパラパラやってみると……、あーらら、動かない。
そうか、各章ごとに絵を変えているけど、全部のページの絵を1枚ずつ描くのは予算的に無理だったのね。でも、おもしろい!!

型破り、その3 ―― この本危険!! と内表紙に書いてある。


またもや真ピンクの内表紙に、放射能危険区域を表示するあの「危険!!」マークが書いてあり、その下に、次のようなお断りが書いてあります。


  正当派時代小説を愛する皆様へ
   本書は、あなたの正常な読書体験を
   阻害する恐れがあります。
   おかしいな、と思ったら
   ただちに読むのをやめ、その他の
   まっとうな時代小説をお読みください。


えっ、時代劇の本なのに、時代劇ファンは読まない方がいいの?

型破り、その4 ―― なんてったって、内容が型破り!


主人公の舞田慶之進は、北町奉行所はじまって以来の困ったちゃん同心で、仕事をしないばかりか、同僚の後ろで踊ったり、帳面に落書きしたりして、全く役に立たない。
あろうことか、その慶之進が突然北町奉行所のナンバー2の役職に任命された。徳川吉宗じきじきの命令であるらしい。


折から、江戸市中を震え上がらせる連続辻斬り事件がおこり、このスチャラカ慶之進が事件を解決しなければならなくなった。慶之進が協力を求めた僧侶の修禅は、吉原にハーレムのような理想郷を作ることを夢見る破戒僧である。意気投合した二人は、事件そっちのけで遊郭の極みともいえる京の都を訪ねる計画に没頭して……。


いやはや、こりゃ、正当派時代劇ファンのお怒り必定のハチャメチャ本ですね。

型破り、その5 ―― 著者の経歴が変わってる。


著者の杉沢氏は1973年生まれで、今年34歳。
職を転々としたあと、現在はお酒も飲めないのにバーテンダーをしています。「やってる本人は真剣だが笑ってしまう」シーンを夢中でさがすような、正当派から叱られそうな時代劇ファンとして育ちました。20歳ごろから本格的に小説を書きはじめ、これがデビュー小説とのことです。

本の内容は……


もろもろ型破りなところの多い小説ですが、お笑い好きにはたまらない小話があっちこっちにしかけてあって、私はガハハッと笑いながら読み終わってしまいました。
こんなに笑ったのは、浅田次郎の『プリズンホテル』を読んで以来です。


また、内容の面白さに加え、文章のリズムやテンポを心地よく感じました。
ハチャメチャの内容とリズムの良い文章を両方とも味わえるところをひとつ紹介しましょう。

修禅は、慶之進ともども怪しげな野望に乱舞する吉原の怪僧である。
職業――僧。行動パターン――たかり、宴、檀家回り(目撃証言なし)。
得意技――世迷言。
色こそ悟り、惚れて身分のへだてなく、惚れ合えばただちに結ばれる
「ほれむすの世」を宿願とし、時として慶之進すらついていけぬ脳内
桃源郷(ワンダフルワールド)をさまよう、御仏の、顔も引きつる末法
僧だ!
そしてきっと、ガンダーラにはたどり着けない。


ひとつ難点は、ちょっと目立ちすぎるところです。
私も、職場で隣の席に座っている同僚に見つかって、
  「ねーねー、そのピンクの本、何の本?」
としつこく訊かれたのには困りました(笑)。


アマゾンで取り寄せた場合も、持ち歩くときはカバーをかけることをお勧めします。
(アマゾンにまだ表紙写真が載っていないので、表紙を見たい方は、本書の公式ホームページをご覧ください)