副題:歴史を突き動かす「5つのパワー」とは
著者:齋藤 孝 出版社:祥伝社 2008年11月刊 \1,575(税込) 300P
歴史本にはいろんなジャンルがあります。
古代史、中世史、近代史など時代をしぼったもの、古代から近代までを概説したもの。
日本史、中国史、フランス史、イギリス史など地域をしぼったもの、世界全体を概観した世界史。
社会の流れに着目したもの、個人に焦点をあてた評伝や歴史小説。
歴史本を読む動機もさまざまです。
歴史を物語として楽しみながら読む人、知識を増やすために読む人。
歴史上の人物の生涯を参考にして自分の生きかたを考えようとする人。
歴史の流れから社会のなりたち、社会を動かす力を理解しようとする人。
人間性の根源、人類の宿命にまで思いを致す人。
では、『斎藤孝のざっくり!世界史』のテーマは何でしょう。
それは、「世界史の分析を通して、人類を動かす力を解明する」ことです。
「収入を10倍にする」本のように役に立ちそうもありません。しかし、とてつもなく大きなテーマをかかげていて、人類や社会を理解したいという欲求にこたえてくれる良書と思います。
では、内容に入りましょう。
世界を動かしてきたのは、世界史の「感情」が生みだした5つのパワーだった、と齋藤氏は分析します。
齋藤氏の「ざっくり!」をさらにざっと紹介すると、5つのパワーとはつぎの通りです。
- ギリシア文明から続く、「加速せずにはいられない」という傾向
- 帝国主義、覇権主義に共通する「俺様にひざまずけ!」という欲望
- 植民地主義を生み出したモノへの欲望と、にぎわいへのあこがれ
- 資本主義の推進力である際限のない欲望、社会主義が到達した独裁と暴力、ファシズムを支えた差別意識と排他主義
- 人間を救うはずなのに、侵略のあと押しをしたユダヤ・キリスト・イスラムの宗教3兄弟
それぞれ、世界史上のできごとを点描しながら、各パワーの力の強さ、影響力の大きさを解説しています。
身体論、コミュニケーション論が専門の齋藤さんだけあって、近代化によって忘れられている身体的な感覚の回復を訴えたり、中世の教会が身体を支配することによって心を支配したことを見抜いたりしています。
齋藤さんのいう「欲望」は、心の動きというよりも、身体の奥からわきでてくるものなのでしょう。
5つの軸に導かれた各章を読みおわるころには、教科書の中のできごとが、お互いに関連した世界観の上でしかるべき位置を与えられていることでしょう。
本書は昨年12月6日の読書ノートで紹介した『齋藤孝のざっくり!日本史』の第2弾です。こちらもお勧めです。