10代から知っておきたい あなたを閉じこめる「ずるい言葉」

著者:森山 至貴  出版社:WAVE出版  2020年8月刊  1,540円(税込)  208P


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ざっくり要約すると、「10代の若者向けに、マウンティングに負けない方法を教える指南書」である。
10代向けに読みやすい内容と構成に仕上がっているが、「ずるい言葉」を言う人の心理分析がみごとで、大人が読んでも一つひとつ考えさせられる内容だった。


世の中には、相手より優位に立とうとして、自慢話ばかりしたり相手をけなしたりする人がいる。こういう分かりやすい「マウンティング」行為だけでなく、なかには思い込みや責任のがれ、偏見に満ちた言葉をぶつけてくる人もいる。


本書の最初のシーンに登場する「あなたのためを思って言っているんだよ」は、大人が子どもに向かって「とにかく言うことを聞け!」という時に使う代表的な「ずるい」言葉の例である。
「あなたのためを思って言っている」のはウソで、「大人の都合を押しつけて言っている」のは明らかだ。


とはいえ、「大人の都合」だけでなく「あなたのため」が少しは重なっていることもあるから、反発する前に、「どうして私のためになるのか説明してほしい」と切り返すことを著者の森山氏は勧めている。


誠実な大人であればきちんと説明してくれるはずで、納得できなくても対話の余地が生まれるのは無理強いよりはずっとマシ。きちんと説明してくれない場合は、そんな人は放っておいて、自分の好きなようにすればいいのだ。


冒頭にこんな分かりやすい例を持ってきたあと、例題となるシーンはだんだん難しくなってくる。ありがちな会話なのに、どこが「ずるい」のか簡単には分からないのだ。


たとえば「第3章“わかってる”がカンチガイな言葉」に登場するシーン11。

Aさん:小学生のころ、父親が病気で一時期無職だったんだよね
Bさん:あー、友達にいるからわかるよ
Aさん:え、なにを?
Bさん:ほら、ご飯のおかずが梅干し1個だったりするんでしょ?


父親が一時期無職だったと伝えただけで、なんだか勝手に超貧乏だったことにされてしまった。
Aさんが言いたかったのは、「一時期無職でも不自由な思いはしなかった」ことかもしれないし、「経済的なことよりも、先が見とおせない不安な気持ちの方がつらかった」ことかもしれない。
なのに勝手に決めつけられてしまうと、Aさんは身構えたり距離を置いたりしてしまう。


相手の事情も聞かずに、似た境遇の人を持ち出してわかった気になるBさんの姿勢が「ずるい」のだ。


かと思えば、同じく「第3章“わかってる”がカンチガイな言葉」に登場するシーン12は、逆のケースだ。

Aさん:森川、今日も欠席だったね
Bさん:この前の体育の授業も見学してたよね。サボってんじゃない?
Aさん:さぼりじゃないし。喘息がひどくてけっこう大変なんだって
Bさん:ふーん。そんなこと言われても、喘息の人なんか身近にいないからわからないし


森川さんがサボってる、と決めつけてしまったBさんは、軽はずみに非難したことを謝ればいいのに、「身近にいないとわからない」と言い逃れした。「私は悪くない」というBさんの姿勢が「ずるい」のだ。
シーン11が「友達にいるからわかる」と知ったかぶりしたずるさなのに対し、シーン12は「知らないから仕方ない」というずるさである。


両者に共通するのは、その場で話題になっている人や状況に目を向けず、知っているとか知らないという方向に話をそらしていることだ。


こんな調子で、「上から目線」、「自分の都合」、「思い込み」、「偏見」、「差別意識」などから発する「ずるい」言葉の例を挙げ、なぜずるいのか、言葉の背景にどのような心情が潜んでいるのかを明らかにする29のシーンで本書は構成されている。


「自分は悪くないのに、なんだか悪者にされて悔しかった」という経験を持っている人は多いと思う。
何かの拍子に思い出してしまうと、言い返せなかった悔しさがよみがえり、一日中いやな気分で過ごしてしまう。そんな経験を持つ人は、本書を読むことで過去の心の傷が少しだけ癒されるかもしれない。