『罪と罰』を読まない


著者:岸本佐知子 三浦しをん 吉田篤弘 吉田浩美  出版社:文藝春秋  2015年12月刊  \1,674(税込)  291P


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『読んでいない本について堂々と語る方法』という本が2008年に出版された。


たいていの人は本をちゃんと読んだりせずに飛ばし読みやななめ読みしているし、どんどん内容を忘れてしまうから、気後れせずに自分の考えを述べればよい――というノウハウを一応は語っている。


しかし、実は単なるノウハウ本ではなく、「読んでいない」ことと「読んだ」ことはどう違うのか。そもそも読書とは何なのか? と読書論、書物論を展開する奥の深い本である。


ぼくは『読んでいない本について……』を読んではいないが(笑)、そういうことが書いてあるらしい。


ブックレビュアーがこんなことを言うのはどうかと思うが、本を1冊きちんと読もうとすると、時間がかかるのだ。
それなのに、読書人たるもの読んでいなければ恥ずかしい「古典」が数多く存在していて、とても全部読みきれない。


本書の著者4人も、とある宴席でドストエフスキーの『罪と罰』を読んだことがあるか? という話になった。
お互い、カッコつける間柄ではなかったらしく、4人の反応は、「ない」「ないです」「文庫本は持ってるけど」「読んでない」というものだった。


しかも、この4人、ただのシロートではない。4人が4人とも本に関わる仕事――とりわけ「小説」にたずさわる仕事をしている面々なのである。


あんまり堂々と「読んでない」と披露しあったはずみで、「読まずに読書会を開いてみよう。『罪と罰』という小説の内容を推理してみよう!」という次第となった。


小説そのものを読まずに、「先を読む」読書会のはじまりはじまり〜


断っておくが、ぼくは学生時代に『罪と罰』を最初から最後まで読み通している(オッホン!)
だいぶ忘れているとはいえ、読んだことのない4人とは比べものにならない予備知識を持ち合わせている。


ぼくの予備知識とくらべてみると、4人の推理はひどい! だいたい、舞台であるサンクトペテルブルグのことをよく知らない。「マンガの『島耕作』のロシア遍から得た情報では、むかし皇帝がいた街だったと思う」というところからスタートするのである。
4人の推理は外れっぱなしと言っていい。


ところが、さすがは小説家、翻訳家、著作家の面々。当たっていないとはいえ、推理するストーリー展開がさまざまな小説のパターンを踏襲していて、「刑事と犯人が追いつ追われつする『逃亡者』式のストーリーなんじゃないか」とか、「殺人の動機は賭博か女に決まっている」とか、「家賃払えなくて大家を殺したんじゃないか」などバラエティに富んでいて、「あの暗いドストエフスキーがそんな小説書くわけないでしょ!」とツッコミを入れたくなるほど面白い。


しかし、外れる推理が延々とつづくと、さすがに疲れてくる。
参加者の面々もふと正気に返ったようで、ヨタ話が一段落したとき、「やっぱり読もう!」という展開になった。


4人とも読みおわったあと、今度は本当の読後座談会を開いたようすが最後の章に収録されている。


読んでいないときもにぎやかな面々は、読みおわった後もテンションが高い。


刑事が主人公を尋問するところは『刑事コロンボ』そっくり! と2人が指摘してみたり、刑事の慇懃無礼な口調は片岡愛之助が適役と言ってみたり、手塚治虫のマンガ『罪と罰』が話題に上ったり。


小説家って、アホなことしてるなぁ、と笑いながら読みおわってしまう楽しい本だった。


この本を読みおわると、「『罪と罰』を読んで(または読み返して)みようかな」と思うかもしれない。
そうなったらめっけもんですよ〜