著者:難波 義行 出版社:こう書房 2014年3月刊 \1,512(税込) 247P
1982年にはじまったフジテレビの「笑っていいとも!」が今年3月31日に終了した。
「うわさのチャンネル!!」、「今夜は最高!」以来のタモリファンのはしくれとして、森田一義氏に「おつかれさまでした」と申し上げたい。
記念に何かタモリさんの本を読もうと書店に行って見ると、いろんな「タモリ」本が並べてあった。
樋口毅宏著『タモリ論』
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戸部田誠著『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』
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片田直久著『タモリ伝 森田一義も知らない「何者にもなりたくなかった男」タモリの実像』
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大場聖史『タモリめし』
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いとうせいこう他著『タモリ読本 語っていいとも!』
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河出書房新社編『タモリ 芸能史上、永遠に謎の人物 総特集』
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「タモリ学」とか「タモリ論」などと、大上段に論じられても、ちょっとついていけない。といって「タモリめし」で料理のレパートリーを増やそうと思うほどの料理好きでもない。
気軽に手に取れそう、と選んだのがこの本。『タモリさんに学ぶ話がとぎれない雑談の技』だ。
この本を選んだ一番の理由は「何かタモリさんの本を読んでみよう」ということ。
「場を持たせる雑談力を身につけたい」とか「雑談力をつけて人に好かれるようになりたい」というせっぱ詰まった動機があったわけではない。
気軽に読み終わって感じたのは、積極的に「雑談力」を身につけようという人に勧める本ではないなぁ、ということだ。タモリさんの雑談力の秘密を分析して、マネできそうなところを紹介してくれているのだが、なにぶんお手本のレベルが高すぎる。
30年以上もテレホンショッキングを続けてきた天才タモリを真似しようと思っても、おいそれとできるものではない。
雑談力を本気で身につけるなら、40万部売れた齋藤孝著『雑談力が上がる話し方』
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や、続編の『雑談力が上がる大事典』
を読んだほうがいいと思う。
……と、雑談力に興味のある方がAmazonに行ってしまったところで、ここから先は「タモリ」スタイルに興味をある方だけが読んでいる、という前提で話を続ける。
タモリさんは雑談の天才だ。ゲストが話やすい雰囲気を作り、相手がよく話している間は、聞き役にまわり、なかなかうちとけてくれない相手だと、こちらから話題を提供して何かツボに入るポイントをさがす。
すばらしいタモリさんの話術の中でも最も天才的なのは、話が盛り上がりにくい相手でも、何かしら話の糸口をみつけて広げていくところだ。
難波氏の示した例文には、ガッチガチに緊張した野球選手が登場する。
タモリさんが定番の「趣味」について質問しても、「野球くらいしか興味がないんで」と返ってくる。次の定番質問「旅行」について尋ねてもノリはよくない。ここで無理やり「もし行くとしたら、どんなところに興味がある?」という質問する方法もあるが、雑談に慣れていないゲストなので、良い反応が得られない可能性が高い。
3つめのタモさんの質問は、「ところで、出身はどこだっけ?」というもの。例文では、「岡山市出身です」と答えるゲストに向かって、「どう? 来たばっかりのころにさあ、やっぱ地元とは違うなーっ、なんて感じたことなかった?」と展開し、雑談は回りはじめる。
難波氏の分析によると、タモさんは外さない質問パターンを用意しておく、相手が考える時間を作る、意図をもって尋ねる、相づち、同調を繰り出すなど、話を盛り上げる秘訣がたくさん含まれているのだ。
話の内容のほかにも、声の強弱・トーンの高低・テンポの緩急・間の取り方などの話し方、姿勢・ジェスチャー・表情・視線などのボディランゲージなど、いわゆるノンバーバルコミュニケーションも、タモさんは絶品だ。
難波氏の分析を読んでいると、「そうそう。タモさん、いろんなパターンで動いているよな〜」と納得する。
個人的に、自分の失敗体験を思い出し、反省させられたことがある。
それは、「意図(狙い)をもってたずねる」という質問の基本。
僕が思い出した失敗談というのは、大学に入って寮生活をはじめたばかりのできごとだ。
何かの用事で、まだお互いを良くしらない寮生と、近くの駅まで7〜8分の道のりを2人で歩いていた。なかば自己紹介しながら歩いていたのだが、なかなか話が盛り上がらない。
話題に困って、「彼女いる?」と質問した僕に、彼は「そんなこと聞いてどうするの?」と逆質問。「いや、とくに……」と口ごもると「必要がないんだったら、そんな個人的なことを聞くべきじゃない!」と強い口調で叱られた。
男子寮に入ったばかりの寮生なんだから、すぐに彼女ができるはずない。彼が「彼女なんていないよ」と答えてくれたら、「僕もそうなんだ」と、少しは親近感が増すかもしれない。
そんな軽い気持ちで聞いた質問だった。
もしかすると、彼には高校の頃からつき合っている彼女がいたのかもしれない。時間かせぎの無意味な質問をしたせいで、彼は不愉快な思いをし、僕は気まずい思いをした。
もう、30年以上前のことだが、今でもときどき思い出しては「はぁー……」とため息をつくことがある。
本書83ページにある「意図のない質問は、相手に不信感を抱かせる」という指摘が身にしみる……。
タモさんのすばらしさを堪能しながら、話の盛り上げ方の勉強にもなり、ちょっとだけ反省させられた。