経営者・平清盛の失敗


副題:会計士が書いた歴史と経済の教科書
著者:山田 真哉  出版社:講談社  2011年12月刊  \1,365(税込)  221P


経営者・平清盛の失敗 会計士が書いた歴史と経済の教科書    ご購入は、こちらから


『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』でミリオンセラーを放った山田真哉さんの2年ぶりの新刊である。


ベストセラーで有名になったのはいいものの、出版社から山田さんに寄せられるオファーは、
「『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』みたいなものを書いてほしい」
というものばかり。


いいかげん、うんざりしていたという。


今回も講談社の編集者から「“さおだけ屋”みたいなものを」と執筆依頼を受け、即座に断ろうと思っていたその時、山田さんの中に「悪の心」が芽生えたそうだ。


ちょうど平清盛の研究に力を入れていたので、「なんとか清盛の本を出す方向にすり替えられないかな」と思いついたのだ。
「歴史を使ってなら、『さおだけ屋〜』みたいな話が書けます!」と編集者に提案し、とうとう実現してしまった。




編集者を説得するために用いたのは、次のような論法である。

  • 『さおだけ屋〜』は、一つの謎を提示して、それを解いていく過程でお勉強になる話を入れていく、という構成だった。
  • 今回も“清盛にまつわる謎”を提示して、それを解いていく過程で経済の勉強になる話を入れる、という構成にすれば面白いはず。


山田さんが大好きな平清盛には、次のような謎がある。

その1
 「平家は貿易で巨万の富を得た」というが、日宋貿易は本当に儲かるのか?

その2
 政府が反対したのに、なぜ外国貨幣の「宋銭」が普及したのか?

その3
 莫大な財力をもっていた平家がなぜあっさり滅亡したのか?


はじめの二つは、歴史に詳しくない人にはそもそも思いつけない疑問だ。「宋銭」の普及なんてよく覚えていないし、政府が反対していたなんて知らない人の方が多いはず。
でも最後の疑問「平家がなぜあっさり滅亡したのか?」というのは、言われてみれば、確かに不思議だ。“謎”と呼ぶにふさわしい。


山田さんは、平家滅亡の謎をクライマックスにして、清盛についての“謎”の数々を経済的視点で解いていく。あまり聞いたことのない「歴史経済ミステリー」というスタイルにチャレンジしているのだ。


ミステリーのネタばらしは御法度なので、本書で提示される“謎”の一部を紹介しておこう。


最初に山田さんが掲げるのは、「貿易で巨万の富を得た」って歴史の授業で教わるのは本当? という疑問だ。
地理的に遠く、国内事情も違う外国と貿易するには、それなりの危険(リスク)が伴うものだ。


現代風にいえば、
 1.カントリーリスク――戦争・革命・内乱などが起こる危険性
 2.信用リスク――取引先の信用度に関わる危険性
 3. 為替リスク――交換レートによって損失を受ける危険性
 4.シー・ペリル――船の沈没・衝突・火災・海賊などの危険性
の4大リスクが存在する。


では、当時の日本と宋の貿易はどうだったのか。
どうやって平家は貿易で儲けたのだろうか?


ふむふむ。
現代と同じ視点で当時を分析するなんて、おもしろいじゃない!


当時の平家と敵対勢力との争いを「重農主義 VS 重商主義」という図式で解説してみせたりして、会計士が歴史を語るとこうなるのか! と感嘆する箇所があちこちにある。


「……その謎の答えは、この章のラストで明らかにしたいと思います」と読者を焦らす箇所もあり、「そろそろ教えて!」と叫びたくなったりもするが、そのあとの山田さんの謎解きには「ほぉ〜〜」と感心させられる。


山田さんは問う。
「"歴史経済ミステリー"というスタイルは、アリかナシか??」と。


アリ! と僕は思った。