台風かあちゃん


副題:いつまでもあると思うな親とカネ
著者:柴田 理恵  出版社:潮出版社   2011年5月刊  \1,100(税込)  206P


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以前読んだ久本雅美さん(マチャミ)と柴田理恵さんの対談本『イママダ』は、2人が軽快にしゃべくり倒す仕事感、恋愛感、人生観が刺激的だった。


この『イママダ』の中に載っていた柴田さんのお母さんの逸話が忘れられない。
少し長いが引用させていただく。

 母親が現役の教師だった頃、田舎の悪い風習として、物事を決める時は職員会議ではないところで、なぜか決められるんだって。「ま〜、ま〜ま〜ま〜、そうしておきましょ」と言いながら、男の先生同士が目配せしてその場をやり過ごし、女の先生が帰ってから飲み屋に行って決めてしまう。それが悔しくて悔しくて、「どうしたらいいんだろう?」って考えて、「そうだ! 飲み会に一緒に行けばいいんだ!」と思ったらしい。それで、ガンガン酒を飲むようになり、マージャンもするようになって、その場で「私の意見はこうです。勝手に決められては困ります」ということをビッシっと言っていたそうなの。「女が一人で仕事をするためには、そのくらいの覚悟は必要だ」とばかり。
(中略)だから御飯は小学校の時から自分一人で作っていたの。正直、寂しかったなぁ、子供心に。

(太字、大文字とも原文のまま)


(『イママダ』の内容はアマゾンサイトの こちら を参照。
 ちなみに、カスタマーレビューの2番目に載っているレビュー投稿者名の「クロヤギ」というのは、僕のアマゾンペンネームである)


ガンガン酒を飲んで「ビッシ」と言い切るこのお母さんを中心に据えたのが、今回取りあげる『台風あかちゃん』だ。


『イママダ』ではちょっとだけ登場していた台風かあちゃんだが、本書ではパワー全開だ。


戦後間もない昭和21年9月、柴田さんの母須美子さんは富山県の八尾町というところで代用教員になった。女学校出たての17歳だったそうだ。
娘から見ても「母は独立心旺盛というか、男をも圧倒するパワフルな女性」という須美子さんには、当時からたくさんの武勇伝があった。


遠足で行った動物園で、子どもが落とした傘を取りもどそうとして、サルの檻に近づき、逆にメガネを取られたことがあったそうだ。当時のメガネは高級品だから、サルを押さえつけ必死の形相で取りもどしたのだが、メガネの弦はグンニャリと曲がってしまった。


ぼろぼろになったメガネをかけた須美子さんは生徒を集め、このことは家で話してはいけません。作文に書いてもダメです、と口止めした。


だが、次の日には村中の人が「サルとの大バトル」事件を知っていて、生徒全員が作文に書いた。おかげで校長室でこってり油を絞られた須美子さんだったそうな。


結婚してお母さんになってからも、独特の教育方針を徹底している。


アメリカから小麦を輸入しなくてはならないという国の事情でパン食を推進しようとしている教育委員会に向かって、「パンを食うなら、コメを食え!」と意見したり、「おひな様なんて、なんのために必要なんだ!?」と買ってくれなかったり。


子どもが声を出して泣くのが大きらいで、柴田理恵さんが叱られて泣いていると、「うるさい!」と怒鳴り、それでも泣き続けていると、家から外に出されてしまう。
おかげで柴田さんは、長いこと声を出して泣くことができなかったそうだ。悲しい時は黙って泣く。口にハンカチを噛みながら、声を出さない。


柴田さんの劇団WAHAHA本舗にも母の影響は及んでいて、劇団の若い連中が先輩に叱られて声を出して泣いたりすると、柴田さんに問い詰められる。

「お前はみんなに泣いた顔を見せたくて泣いているのか? それとも、ただ悔しくて泣いているのか? 悔しくて泣いているのなら、誰もいないところで泣け!」


問い詰めながらも、柴田さんは「母と同じことを言ってる自分に、愕然としてしまいますけど……」と少しは反省している。そこがまた笑える。


こんなハチャメチャ親子だが、娘への深い愛情を感じさせるエピソードも登場し、ちょこっとホロリとさせられる。……が、そこは読んでのお楽しみにしておこう。


須美子さんは、80歳を超えても、夫婦で一緒にお酒を飲んではケンカしている。元気に過ごしているのだ。


巻末には、柴田さんと母須美子さんの母子対談も載っていて、須美子さんが柴田さんに説教する場面も登場する。


元気に生きた昭和一桁世代が、まだまだ元気に活躍している。
希望の持てる一書である。