著者:中村うさぎ マツコ・デラックス 出版社:毎日新聞社 2010年11月刊 \1,260(税込) 195P
芸能人の本なんて、どうせゴーストライターが書いてるんでしょ! ――と言いだしそうな毒舌キャラの2人が往復書簡集を出した。
芸能人本にゴートライターがつきものかどうか知らないが、この本は本人たちが書いた、と思う。
理由の一つ目は、中村うさぎは作家で、マツコ・デラックスも元編集者だから。
原稿を書きまくってきた2人なら、これくらいの分量の手紙を書くのは朝飯前のはずだ。
もうひとつの理由は、相手の心にずけずけと入っていくかと思えば、逆に自虐的に自分の欠点をえぐり出しているから。
もしゴーストライターがこんなことを書いたら、本人たちが承知しない。自分たちが書いた自虐ネタだからこそ、出版記者会見まで開いているのだろう。
最近バラエティー番組に出まくっているマツコを知っている人は、他の芸能人の悪口やうわさ話ばかりと思うかも知れないが、読んでみると、そうではなかった。
意外と感じるほど、生きがい、とか、自分探しが話題の中心なのだ。
中村うさぎの最初の書簡に、早くも次のように「自己実現」が登場する。
社会的に成功することが自己実現だと思って必死に頑張ってみた結果、手に入れた金だの知名度(って、笑っちゃうわね)だのがどれだけ無意味なものかを確認しただけだった。
マツコも負けてはいない。やはり最初の返信で次のように「孤独」を語る。
アタシは、たとえ結婚していようがいまいが、子供がいようがいまいが、人生ってのは孤独との戦いで、多かれ少なかれ、人が孤独から解放されることはないって思ってる。
なんなんだ! この本。
タレント本じゃなかったのか!
そういえば、4年前に読んだ中村うさぎの『愚者の道』も、ずいぶん内省的な本だった。
少し長いが、引用してみよう。
誰の役にも立たなくても、何事も成し遂げられなくとも、生まれてきたことにも生きていくことにも価値はある。だから、そのことについては心配しなくてもいい。ただ、自分の体験や言動のひとつひとつに意味を求め、責任を持って生きていかなくては、自分の人生に流れている何十年という時間が繋がっていかない。我々は、「より良い未来」を夢見て生きるものである。
これは鈴木健二アナウンサーの書いた一節だ、と言われれば、そんな気もしてくるから不思議だ。意外に真っ当な人生観に驚いてしまった。(『愚者の道』の読書ノートは こちら)
世間の基準から大きく外れている2人が、人生の意味を考えたり、自分探しをとことん突き詰める。
ふつうサイズの自分が抱えている悩みなんてちっぽけに思えてくる一書。
意外とアタリかも。