『「感情の整理」が上手い人下手な人』ほか


積ん読してる本が60冊を超えたので、今日は、同じ系統の本をいっぺんに3冊とりあげちゃう。
読みやすい新書なので、今回は内容紹介も少なめになることを、あらかじめご承知おきいただきたい。

「感情の整理」が上手い人下手な人


副題:感情コントロールで自分が変わる
著者:和田秀樹  出版社:新講社 ワイド新書  2007年11月刊  \900(税込)  189P


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1冊目は、『「感情の整理」が上手い人下手な人』。
売れっ子作家の和田秀樹氏が、精神科医の立場から感情をコントロールすることの難しさと大切さを教えてくれる一書だ。


和田氏のいう「感情の整理」が下手な人、とは「不機嫌な人」のことだ。


不機嫌な人は、ダダをこねている子どもと同じなので、どんなに立派な肩書きがあっても、「わがまま」にしか映らないし、スケールの小さな人間に見えてくる。
子どもじゃないんだから、いい大人が不機嫌に過ごすのはやめようね、というのが本書の主題。


はじめに、不機嫌がよろしくない理由を簡単に述べたあと、人間の心理傾向を次のように解説し、考えさせてくれる。

  • 「虫が好かない人」が多い人は、自分に問題がある?
  • 「ああはなりたくないね」と思われる人は、すぐ悪感情を口にする
  • ほどほどの自己愛が「いい自分」をつくる
  • 「嫌われたくない」気持ちが不機嫌をつくる
  • 外面のいい人は、なぜか不機嫌になりやすい


第3章からは、「嫉妬」はもう卒業しましょう、「心」の掃除は簡単にできます、と、コフートアメリカの精神分析家)の理論を交えながら、上手に感情の整理をする方法を教えてくれる。
特に朝の気分を大切にしてほしい、朝の気分のいい人は、「感情の整理」が上手な人、という指摘は、以前紹介した佐藤伝さんの『魔法の習慣』とも通じている。


ガンコ親父になるよりも人から愛されることを目指そう、他人のアラ探しをしてないでおおらかに生きよう、と提案して本書は終わっている。


本書の本筋から外れるかもしれないが、和田氏が説明のために挙げるたとえ話は、ちょっとステレオタイプすぎる気がした。


第2章のはじめに掲げた「妻の買い物につき合う夫は、なぜ不機嫌か」というサブタイトルが示すように、「男は買い物が好きではない」というかなり手垢のついた“常識”をマクラに使っている。

本文のなかで、和田氏は次のように言いきる。

ご主人の本音を言えば、たまの家族サービスは仕方ないとしても、「都心のデパートだけはご免だな」という気持ちがあります。多くの男性にとって、女性の買い物につきあうのは苦痛以外のなにものでもありません。


そうかなぁ。
僕は都心のデパートに家族で出かける年に1度のイベントを、ものすごく楽しみにしているけどなぁ。
和田氏が「苦痛以外のなにものでもない」と思っているのは分ったけど、「多くの男性にとって」なんて、いっしょにして欲しくないなぁ。


言葉じりをとるわけではないが、そもそも、家族と同じ時間をすごす大切な時間を「家族サービス」なんて呼ぶところから間違っているし、「ご主人」なんて不用意に言っちゃいけないでしょ!!


――いかん、いかん。
どうも、僕はオジサン論調を聞くと、自分もオジサンのくせにムッときてしまう。
それをストレートに出してしまうと、感情の整理が「下手な人」って言われちゃうぞ。
感情コントロールの本を読んだのに、これでは逆効果ではないか。


ささ、深呼吸、深呼吸。


す〜〜、は〜〜、す〜〜、は〜〜、す〜〜、は〜〜、……。


よし、2冊目に移ろう。

その言い方が人を怒らせる


副題:ことばの危機管理術
著者:加藤重広  出版社:ちくま新書  2009年11月刊  \777(税込)  238P


その言い方が人を怒らせる―ことばの危機管理術 (ちくま新書)    購入する際は、こちらから


次に紹介するのは、『その言い方が人を怒らせる』。


別に挑発しているわけでもないのに、相手が怒りだしてしまうような言い方の例を挙げ、どこがまずいのか、なぜまずいのかを言語学的見地からていねいに解説してくれている。


たとえば、ある謝罪記者会見での発言例。

  「本日発生しました事故の件ですが、この件につきましては、
   誠に申し訳ありませんでした」


きちんと謝罪しているように見えるが、「この件につきまして」のあとに余計な「は」が入ることによって、「この件については謝るけど、この件以外は謝らないからねー」というニュアンスが伝わってしまう。
謝罪会見なのだから火に油を注ぐつもりはないはず。なのに、なぜ余計な「は」を付けてしまったのか。


著者の加藤氏が言語学者として指摘するのは、なるべく丁寧に丁寧に表現しようとする意識が表現を長くさせた、ということだ。


「この件について、謝罪します」では短くてぶっきらぼうに聞こえるから、もっと丁寧に言わなくてはいけない。
もっと丁寧に、もっと丁寧にという意識が文章を長くさせ、
  「この件について、謝罪申し上げます」
      ↓
  「この件につきまして、謝罪申し上げます」
      ↓
  「この件につきましては、謝罪申し上げます」
と補う必要のない「は」を付けてしまった、というのだ。


さすがに、「この件についてのことなのでございますが、謝罪申し上げます」まで長くしてしまうと文章がおかしいことにすぐ気がつくが、丁寧にしようとして言葉を追加していくときは、たとえ一文字の「は」であっても、追加した言葉の持つニュアンスに注意しなければならない。


そうしないと相手に誤解を与えてしまう。ああ、言葉って難しい。


そもそも、日本人には、断定を避けたいという心理的傾向があるらしい。だから、「〜です」で文を終わらせずに、「〜だと思います」のように従属節を追加しがちになるし、「〜だと思いますが、」と文を閉じない言い方が多用されることになる。
特に話し言葉では、文を閉じてしまうと「自分の発言は終わりました」と相手に発話権を与えてしまうことになるので、切れずに続く長い文で話すことが珍しくない。


論理的に話しをする必要があるときには、意識して文を短くまとめあげたほうが良いようだ。


文を短くしたあと、順序にも気を配ったほうがいい、と加藤氏は指摘する。


「大変申し訳ありませんが、当初の納期より遅れることになりそうです」
と、
「当初の納期より遅れることになりそうです。大変申し訳ありません」
の2つを比べると、2番目の方が、より丁寧にお詫びをしていると感じられる。


「大変申し訳ありません」と最初にお詫びしたつもりでも、「が」を付け足すことによって、お詫びが単なるまくらことばになってしまう。
しっかりお詫びするなら、「大変申し訳ありません」の順序も大切なのだ。
このほか、ロゴスにパトスを込める大切さ、「〜じゃないですか」になぜイラッとするかなど、日本語の成り立ちから説き起こした説明に深く納得させられた。


単なる言葉づかいのノウハウ本ではなく、知的満足を与えてくれる一書だった。


ひとつ残念だったのが、噛んで含めるように教えてくれる親切な内容なのに、加藤センセ、裏表紙の顔写真で読者にガンを飛ばしていることだ。


「なんだよ、文句あんのかよ〜」と言っているようにしか見えない。


タイトルがタイトルなんだから、編集者も、もうちょっと気を配ってほしかった、と個人的に思ったりするんだけど、もしかするとご本人のこだわりのある写真かもしれないので、よく確かめないで編集者を責めるのもどうかという気もするから、あくまで個人的意見とお断りしておこうと思うのだが、他の読者はどう感じるのか確かめてみたい気もするが、皆さんはどうかな。


――断定を避けて文を閉じないとこうなってしまう。なんなんだ、この歯切れの悪さは!(笑)


内容紹介は少なめ、と言いながら、けっこう長くなっちゃたかな。
急いで3冊目の『「話の腰」を上手に折る技術』に移ろう。

「話の腰」を上手に折る技術


著者:藤田 完二  出版社:中公新書ラクレ  2010年9月刊  \777(税込)  206P


「話の腰」を上手に折る技術 (中公新書ラクレ)    購入する際は、こちらから


長いブログに飽きてきたらそこで読むのをやめれば良いが、相手の話が長いからといって、途中で話を止めてもらうのはなかなか難しい。
どうやったら長い話を途中で終わらせることができるか、というのが本書のテーマ。テクニックをたくさん教えてくれるノウハウ本である。(と断定しておこう!)


長い話の対策を考える前に、著者の藤田氏は、まず話が長い人の実態を観察する。


話の到達点(ゴール)のイメージがない人は、地図なしで動きまわっているようなもの。(ナビ無しパターン)
こういう人は話にオチがないから、こちらまで迷ってしまって二重遭難することだけは避けたい。


言いたいことをストレートに言わず、予防線を張ったり、長い前置きをおく「まぶし作戦パターン」の話も長くなる。
家庭でも職場でもあまり相手にされない人が、ここぞとばかりに話を続ける「この時がチャンスパターン」も、相手がお客様だったりすると逃げるのは難しい。


そのほか、ぜんぶで8つのパターンに分けて話を長くする人の特徴が分析されているのだが、共通しているのは、相手への思いやりが少ない、ということだ。


相手の話を聞いているふりをしながら、次は何を話そうか考えている人はもちろんだが、相手に遠慮して当たり障りのない話をする人も、結局は「嫌われたくない」という“自分の都合”を優先しているのだ。


続いて藤田氏は、なぜ話が長くなるのか、心理メカニズムから困ったちゃんを分析する。
現実の自分より大きく見せたい、とか、物知りで知的に思われたい等、実は心理的に不安を抱えている人ほど話が長くなるという分析はおもしろい。


第3章からは、いよいよ話が長い人への対処法が載っているのだが、ここは本書のキモなので詳しい内容は割愛させていただく。


ひとつだけ興味深く感じた「話を深めないあいづち」についてご紹介。


話を聴く技術を紹介した本には、話題が深まるように適切なあいづちを打つことを勧めている本が多い。「へー、そうなんだぁ」、「よく分かるわぁ」「がんばっているのにねぇ」のように、認める、共感する、褒めることが大切なのだ。


話を早く打ち切りたい場合は、これと逆にすればよい。


「そんなことないよ」、「僕はそう思わないな」、「あんた気にしすぎなのよ」など、否定的、非共感的なあいづちを返せば、相手は気持ちよく話ができなくなってしまうのだ。


最後に、本書で最も強烈だったとっておきのあいづちをご紹介。


それは、「この話もっと長くなりますか?」というストレートな質問。


えっ? それが言えりゃ、苦労はしない?
ごもっとも!