25歳の補習授業


副題:学校で教わらなかったこれからいちばん大切なこと
著者:福岡伸一糸井重里池上彰, 姜尚中, 養老孟司太田光, 渡邉美樹
出版社:小学館  2009年10月刊  \1,050(税込)  186P


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村上龍著『13歳のハローワーク』が大ヒットしてから、「○○歳のための○○」というタイトルの本をよく見かけるようになった。

僕が目を通しただけでも、中学生向けなのに大人が読んでも面白い、
  池田晶子『14歳からの哲学』
  宮台真司『14歳からの社会学』
  福田淳『これでいいのだ14歳。』
  豊崎由美『勝てる読書(14歳の世渡り術)』


高校生向けなのに、大人が読んでも難しい
  松岡正剛著『17歳のための世界と日本の見方』
などがある。


社会人になった若者に向けては、明日香出版社の「あたりまえだけどなかなかできない」シリーズが、
  『あたりまえだけどなかなかできない25歳からのルール』
  『あたりまえだけどなかなかできない33歳からのルール』
  『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』
が揃っているし、ナナブックスから櫻井秀勲著の『35歳からの「愚直論」。』なんて本も出ている。


年齢をタイトルに入れることは、出版社がターゲットをはっきり絞っていることを意味する。


でも、出版社の意図が明らかだといって、読み手がタイトルに縛られる必要はない。14歳向けに送られるメッセージには世代を超えるものが多いし、17歳向けの本を17歳に独占させておくのはもったいないではないか。


――というわけで、いま52歳の僕が25歳の読者を想定した本、社会人になって2〜3年目の若者に読んでもらいたい一書を手にした。


どういう基準で選んだのか分らないが、編集者が選んだ講師は、出版界のスーパースターたち。数十万部、数百万部のベストセラーの著者ばかりだ。

自分の経験をとおして、人気作家が若者に語りかけるメッセージにハズレがあるはずはない。
各章末には、授業のポイントを2色刷りで整理してくれるなど、至れり尽くせりの内容に仕上がっている。

25歳の青年には人生のヒントや気づきが満載で、きっと「読んでよかった」と思えるに違いない。

52歳の僕が読んでも新鮮に感じるメッセージも多かった。いくつか例として引用しようとも考えたが、僕の引用文を読んでこの本を読んだ気になってしまうと、実物を手に取らないおそれもある。それではもったいないので、別の紹介のしかたを考えることにしよう。


本書の楽しみかたのひとつは、もちろん、「20代の今はこうすべきだ」という講師のメッセージを真正面から受けとめることだ。


もうひとつ、今回、僕が試してみたのは、
  「ははぁ〜、この発言はこの人らしい言い方だなぁ〜」
という少し斜めからの受けとめ方だ。


たとえば、福岡伸一氏は、「自分のなかを探しても、自分は見つからないんだよ」と言う。
いくら探したって「本当の自分」なんて見つかりませんよ、時間のムダですよ。という意見はよく聞くが、福岡氏が自分探しにダメだしする理由は、もっと科学的だ。


分子生物学が明らかにした細胞分裂のメカニズムから、「内省していてもわからないということになります」と結論する。

こんな論理展開で自分探しを否定する意見は聞いたことがない。


同じように、姜尚中氏は「今の時代、天職という考え方はあまりしないほうがいい」と言っているのだが、その根拠は正規雇用が少なくなっている社会情勢にある。

正社員になれたとしても、待遇は悪くなる一方。ならば人生の価値観をどこに置くかが重要になってくる、と説いている。自分がどんな価値観を持つかよく考えるようにアドバイスし、最後には「悩む力は生きる力」という結論に達するのが、いかにも姜尚中らしい。


もうひとつ、渡邉美樹氏が会社説明でよく受ける質問の話。


「やりたい仕事やモチベーションの見つけ方、その仕事が天職かどうかの判断が難しい」という質問を受けたとき、渡邉氏は「まず、やってみることだ!」と答えるそうだ。


「多くの場合、やってみたらたいしたことなかったり、「な〜んだ、このぐらいのつらさか」ってことで、意外と拍子抜けだったりするものなんですよ」


さすがは渡邉氏。
企業資金を貯めるために佐川急便で過酷な労働に耐えたという自身の経験を、決して特殊な事例と思っていない。


7人とも、「いかにも」という発言を楽しめる一書だった。