リンゴが教えてくれたこと


著者:木村 秋則  出版社:日本経済新聞出版社(日経プレミアシリーズ)
2009年5月刊  \893(税込)  211P


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奇跡のリンゴ』で一躍有名になった、あの歯のない笑顔の木村さんが書き下ろした新書です。
奇跡のリンゴを生み出すまでにどんな苦労があったのか、その過程で何を考え、日本の将来のためにどんな行動を起こしているのかを語っています。



本書の前半は、木村さんが農家に婿入りした経緯からはじまり、農薬に“かぶれる”被害をさけるために農薬散布を減らしはじめたこと、最初はよかったものの、完全に無農薬にしたとたんに収穫がゼロになったこと、土地を売り貧乏しながら工夫を重ね、とうとう無農薬のリンゴを実現したことなどが順番に書かれています。


無農薬でリンゴを育てる。
無謀ともいえる試みに家族だけは理解を示してくれましたが、周りの農家は全員が反対。かまど消し(家のかまどの火を消してしまうような貧乏人。青森では「破産者」のこと)、ろくでなし、アホと罵倒されました。


冬のあいだ北海道へ出稼ぎにいってチェーンソーの振動で白蝋病に冒されたほか、長距離トラックの運転手、港の荷揚げ、古紙収集、キャバレー従業員など、生活のため、現金収入のため、いろいろな仕事を経験します。


くふうに工夫に重ねてやっと無農薬のリンゴに花が咲いた場面がさいしょに登場しますが、よっぽど嬉しかったに違いありません。



一時は首をつって死のうとまで考えた木村さんの苦労話を読んでいて、以前フジテレビで放送したドラマ『北の国から』を思い出しました。


このドラマの何回目かのシリーズに、無農薬栽培に挑戦する農家が登場したことがあります。


本書にも登場するように、1軒だけ無農薬だと害虫が発生するから周りの農家が迷惑する、と非難されます。
とうとう岩城滉一さんが演じる「草太にいちゃん」が強制的に農薬を散布する場面もありました。
大規模経営をめざし、農薬づけになっていたかつての木村さんは、「草太にいちゃん」と同じ農業経営を目指していたのです。


ドラマでは、その後「草太にいちゃん」がトラクターの事故で世を去り、主人公の「純」と「正吉」があとを継ぎますが、大きな借金をかかえたまま数年で離農を余儀なくされます。
農家の過酷な実態を描いた脚本家の倉本聰は、舞台となった富良野周辺の農家だけでなく、木村さんのように新しいことにチャレンジする農家も取材したのかもしれません。


私も一度は真剣に農家の跡継ぎを考えたことがありますから、個人事業主としての農家の厳しさを理解しているつもりです。
戦前の農家は知りませんが、戦後の農家は農協の言いなりになってきました。肥料や飼料やトラクターなどを購入する際、農協に借金していますから逆らうことができません。
私の北海道の知りあいには、乳牛の数を抑制する営農指導にがまんできず、農協の指示に逆らって乳牛を増やした挙げ句、資金を絶たれて廃業(離農)を余儀なくされた人がいます。


前回セブン-イレブンを取りあげましたが、農協はコンビニエンス・ストアができる何十年も前からフランチャイズの親玉をやってきたのです。


木村さんが無農薬リンゴを成功させたのは、技術面から見て奇跡的なできごとなのはもちろんですが、経営的に見ても奇跡以外の何ものでもありません。


私は『奇跡のリンゴ』を読んでいないので本書との比較はできませんが、本書だけでも木村さんの“変人”ぶりが充分堪能できます。
本書の後半には、無農薬の営農指導のために全国を飛び回っていること、木村流の無農薬栽培は放ったらかしの“自然農法”と違うことなど、最近の活躍も書かれています。


先にこっちを読むのもアリと思いますよ。