貧困に立ち向かう仕事


副題:世界銀行で働く日本女性
著者:西水 美恵子  出版社:明石書店  2003年10月刊  \1,890(税込)  213P


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西水さんの最新刊『国をつくるという仕事』は、本当に素晴らしい本でした。


世界銀行副総裁として実践した貧しい家々でのホームステイ。心の底から貧困を憎むゆえの政治指導者たちへの直言。
日本出身の本物の国際人の姿に感嘆するしかありませんでした。


しかし、ひとつの著作物として見たとき、『国をつくるという仕事』にはいくつもの欠落がありました。


まず、世界銀行へ入行する前の出来事が、まったく書かれていません。
貧困と闘うという奇特で困難な仕事を続ける強靱な人格は、いつ、どのように形作られたのか。どんな家庭でどのように育ち、何を感じてきたのか。
西水さんの活躍を知ればしるほど、魂の出自を知りたくなりました。


また、発展途上国の腐敗した政治家とやりあうわけですから、身の危険を感じることもあったと思うのですが、言及していません。
副総裁時代に南アジア地域を担当したせいか、副総裁就任以前にアジア以外の国で経験したことが書かれていませんし、世界銀行の組織改革を実行したことは分かっても、具体的に何にとり組み、何を改革したか、よく分りません。


分量の都合で割愛したのかもしれませんが、著作としてこれだけ欠落している部分があるのは、既に発表されているのが理由に違いない。そう考えて西水さんの前著『貧困に立ち向かう仕事』を手に取りました。


予想は当たっていました。


本書は、西水さんの生い立ちからはじまり、日本を「脱出」した理由、仕事に取り組む姿勢の根っこが書かれています。
やはり南アジアでの経験が多く語られていますが、ハンガリーユーゴスラビア、トルコ、中国等、他の地域で学んだこと、感じたことを載っていました。
また、ハンガリーで盗聴され、尾行された時のスリルにも触れていますし、パキスタンの現職大臣の不正をあばいた場面では「ほんとうに恐かった」と回想しています。
西水さんのことをもっと知りたいと思っていた私にぴったりの内容でした。


南北問題に関心のある方、『国をつくるという仕事』を読んだ方に、本書もお勧めします。
西水さんの本を、まだ1冊も読んでいない人は、私と同じく、先に『国をつくるという仕事』を読んだほうがいいと思います。