著者:木下牧子/監修 出版社:ナツメ社 2008年6月刊 \1,764(税込) 207P
「クラシック音楽を聞く人は、なんだかインテリっぽくてカッコいいなぁ」と憧れる人は多いと思います。このブログのプロフィールに「そこそこのクラシックファン」と書いているとおり、私も漠然とした憧れで小学校5年生くらいからクラシック音楽を聞き始めました。
はじめて買ったレコードは「白鳥の湖」です。本当にすり切れてしまうほど繰り返し聞いていました。
たしか中学校1年生のとき、モーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」を買いました。
第4楽章を聴いているととても気分が高揚するのですが、なんだか複雑そうな曲です。ひとつか二つの旋律がからみ合っているのを追っているうちに、知らないうちに曲の終わりに達していました。
この曲の織りなす不思議な構造をなんとか把握してやろうと、レコードを何回もかけながら、楽譜もどきの図をわら半紙いっぱいに書いてみました。
のちに「フーガ」という手法の名前を知るのですが、思えば、これが私が譜面に興味を持ったきっかけです。
最初にスコア(総譜)を手にしたのは、ベートーベンの第九。高校一年生のとき、プロの音楽家を目指す友人に付き合って楽器店に行ったとき、「有名な曲だから読んでみたら」と言われて買ったのです。
「読んでみたら」と簡単に言われましたが、音楽の授業で音符の長さを教わっただけの知識では、音の上がり下がりの雰囲気しか分りません。カセットテープに録音してもらった「合唱つき」の交響曲を聴きながら目で追ってみるのですが、途中でついて行けなくなります。
プロの世界には簡単に近づけないことを思い知らされました。
それでも、聴き続けていれば少しずつ知っている曲も増え、ついでにスコアも買い足されていきました。
- ベートーベンの交響曲第3番「英雄」
- ベートーベンの交響曲第7番
- ベートーベンの交響曲第8番
- ベートーベンの交響曲第9番「合唱」
- モーツァルトの交響曲第40番
- モーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」
- ドボルザークの交響曲第8番「イギリス」
- チャイコスフキーの交響曲第6番「悲愴」
- チャイコスフキーのピアノ協奏曲第1番
- ベルリオーズの幻想交響曲
- マーラーの交響曲第4番
- マーラーの交響曲第5番
- リスト 交響詩「前奏曲」(レプレリュード)
- ストラヴィンスキーの「春の祭典」
熱烈なクラシックファンから見ると「これだけ?」というくらいの、まさに「そこそこ」の楽譜が本棚に揃いました。
せっかく楽譜を持っていて繰り返し聴いているのだから、本格的に楽譜が読めたら楽しいだろうなぁ……。
自然の流れで「楽典」についての解説書を探すようになりました。
今日の1冊の前に、私が挫折した2冊を先に紹介します。
その1。 諸井三郎校閲『スコアリーディング スコアを読む手引』(全音楽譜出版社)
70ページもない小冊子なので薄くていいかな、と思ったのですが、私には無理でした。途中で分らなくなります。
本文の最後に、次のように書いてあるのが唯一の収穫でした。
これは要するに長い期間にわたって、たゆまない努力をつづけ、やさしい簡易な総譜からしだいに複雑なものに移っていくようにすれば、漸次読譜力は向上していく。そして少なくとも総譜が読めるようになれば、オーケストラの内で鳴っている楽器の音色を的確に知ることもでき、また普通では気づかないような内声や低音の動きなどにも耳を傾けるようになるであろう。要するに総譜を読む力ができれば、ただ漠然と聞いているときよりも、はるかによくその音楽全体を聞くことができるようになり、したがって、その音楽をよりよく理解しうるようになるであろう。
この言葉に励まされ、次の本を手に取ります。
著者の池辺晋一郎さんは、NHK教育テレビ日曜夜9時のクラシック番組で長く解説を担当している方で、ダジャレまじりのやさしい解説が秀逸です。
きっとこの本も、楽典を楽しくやさしく解説してくれるのだろうと期待したのですが。残念! だめだよ〜池辺センセイ。僕には付いていけないよ〜。
もっと易しい解説書はないのかなぁ……。
ありました!
今日の一冊が私にぴったりの解説書です。
この本の特徴は、とにかく「やさしい」こと。なにしろ、「五線とは?」からはじまっています。途中に「なぜABCのAがドじゃないの?」など興味を引くコラムも織りまぜてありますし、少しずつステップアップするように工夫してあります。
いい! こんな解説書を読みたかった。
もう一つ、本書の素晴らしいところはCDが付いていることです。
当然といえば当然なのですが、音の世界を楽譜と文字だけで想像できないから素人なのです。読んでも分らないことを実際に音で教えてくれるから前に進むことができました。
監修者の木下さんはクラシック音楽の作曲家です。「クラシック」というと昔の音楽のように思いますが、木下さんはクラシック系純音楽作品だけを作曲する現役です。
本書の最後に書いてある木下さんの言葉が、本書の「やさしさ」の源泉のように思います。
そして単に西洋音楽を崇拝したり勉強するだけでなく、同時代の作曲家の新作を自然に受け入れて楽しんでくれる人々が増えていくに違いないと思っています。